堀辰雄「風立ちぬ」。
エドナ・オブライエン「ジョニー・あなたと知らずに」。
泉鏡花「外科室」。室生犀星「性に目覚める頃」。
クリストファー・デイヴィス「ジョゼフとその恋人」。
ヒューバート・セルビーJr.「ブルックリン最終出口」。
井上靖「あすなろ物語」。武田百合子「富士日記」。
樋口修吉「ジェームス山の李蘭」。
エヴァン・ハンター「逢う時はいつも他人」。
勝目梓「悦楽」。
ジェームズ・ボールドウィン「ジョヴァンニの部屋」。
原田康子「星から来た」。福永武彦「海市」。
ヤン・ウォルカーズ「赤い髪の女」。
遠藤周作「わたしが・棄てた・女」。
草間彌生「死臭アカシア」。
プロスペル・メリメ「カルメン」。
赤江瀑「花夜叉殺し」。
アラン・シリトー「漁船の絵」。
壺井栄「あたたかい右の手」。

とまあ、これだけ並べても何だかわからないでしょうが。これらの小説の文章が、この「無銭優雅」の中に引用されているのですね。小説の文章は明朝体ですが、引用された文章は教科書体で印刷されています。ただし、引用元は本文中に明記されていなくて、巻末にまとめて表示されているのです。これがミソ。僕はついつい巻末のリストを照らし合わせて読んじゃいましたが、それをせずに読むのも面白かったかなと反省してます。古今東西の恋愛小説の名作からの引用が主人公ふたりの恋愛や人生に気持ちよく絡まりあって物語が進んでいく趣向。ストーリーは一言でいえば、42歳の独身男女が恋愛する小説、それに尽きます。でも設定や登場人物たちが凝っているんですね。慈雨(じう)は東女卒なのに花屋(といっても吉祥寺のショボいお店)を友だちと共同経営している独身43歳。その彼になった栄(さかえ)は、同い年の独身予備校教師で荻窪の古びた一軒家に住んでいる。彼は乗り物酔いがひどくて、移動は自転車でしか無理。だから、その活動範囲は中央線沿線のせいぜい東西3駅ずつくらいなのです。自然二人のデートもその周辺が主になり、姪から中央線のオトレン(大人の恋愛の略?)と呼ばれちゃいます。そこに絡んでくるのが慈雨の家族で。行かず後家である彼女は70を過ぎた父母と三鷹で同居、さらに同じ敷地の二世代住宅には兄と義姉と二人の姪がいるのです。とまあ、こうした布陣で物語は始まるのです。
ちょっとネタばれもありますが…