矢作俊彦の新作は懐かしの二村永爾が主人公のハードボイルドである。タイトルからして凄い。レイモンド・チャンドラーの「THE LONG GOODBYE」の向こうをはって「THE WRONG GOODBYE」なのだから。ストーリーの展開も似ている。明らかなオマージュなのだが、刑事である二村が意気投合する飲み友達ビリー・ルウはテリー・レノックスを思わせるし、二人が飲むカクテルもギムレットならぬパパ・ドーブレ。おっと、パパとはヘミングウェイのことで彼の好きだったダイキリをダブルで、って頼み方なんですけどね。細部の会話にも小技がビシバシ決まりまくりで、痛快です。「リンゴォ・キッドの休日」、「真夜中へもう一歩」を読みなおし、ついでに「長いお別れ」まで再読したくなる、そんなちょっと滅多にない完璧なハードボイルドです。 大人のための横浜の童話、「キャッチャー・イン・ザ・ベイ」って感じですか。