
恩田陸さんは、デビュー直後から好きで読んでました。それが、いつからか手に取らなくなるようになって…。最近はとんとご無沙汰の作家さんだったのです。それが、ひょんなことから手にしたこの短編集に引き摺り込まれてしまったのです。あとがきにもありますが、かつて早川書房から出版された「異色作家短編集」へのオマージュとして「月刊ジェイ・ノベル」に連載された作品群に巻末の書き下ろしを加えたもの。うーん、舌を巻くしかありません。異色すぎる、とか、奇妙きまわりない、などという書評もあるようですが、これだけのバリエーションを紡ぎだせる恩田陸という作家に脱帽です。ロアルド・ダールやジャック・フィニイ、フレドリック・ブラウン、リチャード・マシスン、レイ・ブラッドベリ、スタンリー・エリンといった作家たちの作品への想いが、恩田陸というフィルターを通してこんな形に結実するなんて、信じられません。こんな短編集をものした作家が日本にいることは本当に誇りとしかいいようがないですね。ひとつひとつの作品の紹介や感想は置いておいて、ここには全作品のタイトルだけを記すことにします。
「観光旅行」
「スペインの苔」
「蝶遣いと春、そして夏」
「橋」
「蛇と虹」
「夕飯は七時」
「隙間」
「当籤者」
「かたつむり注意報」
「あなたの善良なる教え子より」
「エンドマークまでご一緒に」
「走り続けよ、ひとすじの煙となるまで」
「SUGOROKU」
「いのちのパレード」
「夜想曲」
SF風あり、ショートショートぽいものあり、ミュージカル仕立てあり、民話風あり、ファンタジーあり。中には唐突に終る尻切れトンボなものや、実験的に過ぎて面白いとは言い難いものや、読者に超不親切で想像力がないと楽しめない作品もあるのですが、それも全部ひっくるめて、この作品集を楽しむのが正しい鑑賞法だと思いますね、僕は。さらに素晴らしいアイデアとして全作品に英語タイトルが用意されています。翻訳家の柿沼瑛子さんによるもので、読者のさらなるイマジネーションをかきたてる格好の素材になっているのです。各作品の英語題はここには記しませんが、本書を読む際には英題もチェックすることが不可欠なのだと言っておきたいですね。今年のいまのところ、ベスト1でした。