小川洋子は芥川賞作家ではあったけれど、こつこつと作品を発表する地味な小説家というイメージの人でした。それが、注目されたのは一昨年本屋大賞を受賞したことによるでしょう。書くまでもないかもしれないですが、本屋大賞は「全国書店員が選んだ いちばん!売りたい本 本屋大賞」が正式名称。イベントとしては、本の雑誌と博報堂が運営しています。その栄えある第1回大賞だったので、各マスコミも大々的に取り上げていました。おかげで映画化ということにもなったのでしょうね。といいつつ読んでいなかったんですが、このたびめでたく読了しました。いや、面白いです。シングルマザーの家政婦と交通事故で記憶が80分しかもたないという数学者のお話。こういう設定じたいが、ちょっとアメリカの現代小説みたいだし。家政婦の息子もからんで、ほのぼのしたムードもあるし。記憶が消えるという点では、少し「アルジャーノンに花束を」も入ってるし。十分楽しんで読めました。純文学出身作家としては、ちゃんとエンターテインメントとして完成されてるし。ところで、この時同時に大賞を争った作品は「クライマーズハイ」。202点vs148点ということで、圧倒的に勝った訳です。なんとなくその理由もわかる気がします。というのは、この審査員である書店員さんて、女性が多いんですよね。書店員さんと言えばまず、間違いなく本好きな女性です。活発でスポーツ好きと言うのでなしに、本好き。ボーイフレンドと遊びまわるよりも、本好き。いや、悪い意味で言ってるのではないですが。そんな彼女たちにとって、この本で描かれている恋愛(じゃないか、ほのぼのとした愛情)は、最も素敵に感じられたのではないかと思うのです。数学の問題に没頭して身なりもかまわない博士という男性は、実は魅力的な存在なのではないでしょうか。それから、夫はおらず可愛い息子と二人という暮らし。そして、博士と息子が温かく交流する。ファンタジーではあるけれど、本が好きな文科系女子の一つの理想なのかもしれません。ちょっと考えすぎでしょうか?