幻の桜というバーがある。銀座8丁目の酒屋・信濃屋の向かいのビルの地下にある。目印はイーゼルを使った看板だ。以前はソニービル裏のビルにあった。その前は、三軒茶屋にあった。オーナーバーテンダーは井口さんという30代の男性だ。井口さんは洋酒のオーソリティである。などと言うと銀座のバーテンダー然とした蝶タイに黒ベスト、髪七三分けの人を想像するかもしれないが、さにあらず。井口さんは夏はでろんと伸びたTシャツかポロシャツ、冬はノルディック模様のスキーセーターで店に出ていたりする、茫洋とした青年である。井口さんは多分日本でも数本の指に入る洋酒おたくなのだ。店に並ぶボトルが凄い。禁酒法時代のバーボン、200年前のコニャック、1919年製造のジン…。井口さんのバック・バーには埃をかぶり色の変ったラベルの見たこともないような酒瓶が並んでいるのである。これらのお酒は、サザビーズやクリスティーズなど海外のオークション等で入手した貴重な逸品たち。中には、ショットで5000円とか1万するのもある。しかし、うまい。僕が好きなのは1919年のジン(ショットで5000円だが、ハーフショットにしてもらうと3000円だと思う)。口に含むと、「え、これがジン!」と思うような素晴らしい香りと味わいがする。井口さんによると昔の酒がうまいのは原料の穀物やそれを育てた土壌や水がよかったからなのだそうだ。農薬やら公害やらで地球が汚れてしまった現在ではどんなにお金を積んでも作り出すことが不可能な味なのである。そして、お酒をサーブするグラスも、どこから見つけてきたのか可愛いアンティークばかりなのだ。古い強いお酒が苦手な人には、井口さんの作るフルーツをふんだんに使ったカクテルやフィズもおすすめだ。今の季節なら、キーウィ、みかん、トマトのカクテルがある。1930年に仕込んだカルヴァドスを1950年ごろに瓶詰めしたというカルヴァドス
(写真←)も美味しかった。ところで、井口さんは洋酒おたくである一方、ゲームおたくでもあり、占いおたくでもある。この間うかがった時やってもらった恋に関する占いだが…。「山奥の森の中に湖があります。そこで、小さな女の子が湖に向かって何かを捨てています。それは次の4つの何だと思いますか? 1.携帯電話 2.人形 3.積木 4.ぬいぐるみ」。というもの。
さてあなたは、どれを選びましたか… 占いの結果なんですが、これはその人が恋愛に関して持っているコンプレックスを示す心理クイズなんだそうです。1の携帯電話は口下手を、2の人形は容姿を、3の積木は貧しい恋愛経験を、4のぬいぐるみは過去の恋愛から受けた心の傷を、それぞれ表しているんだそうです。当たっているでしょうか? ところで、右のイラストは井口さん描くところの猫ちゃんです。