服部真澄と言えば、「龍の契り」で華々しくハードカバーデビューを果たし、2作目の「鷲の驕り」で吉川英治文学新人賞を受賞するなど、海外を舞台にした謀略ミステリーの作者として有名である。その後も「ディール・メイカー」「GMO」など同路線の作品を発表する一方、趣味の骨董系の著作も出版していた。「バカラ」は週刊文春に連載されたミステリーで、主人公は週刊文春そのものを彷彿とさせる週刊誌記者でアングラカジノに嵌っている男。カジノ解禁とアングラ・マネーをテーマにしたということで期待感は募る。とはいえ、連載時も単行本の時も読まずにいたのは、何らかの予感があったのか…。今回文庫化にあたって読んで見たのだが…。ディテールはよく調べているのだが、ギャンブルに対する“熱”が感じられないのだなあ。どんな種類の小説であろうと、賭けを取り上げたらそこには“熱”がなくてはね。阿佐田哲也とか白川道、森須博には及ばずとも、藤原伊織くらいのギャンブル熱は欲しいよな、最低で。多分この女性作家は賭け事をしないのだろう。そんな感触で、気勢を殺がれて読み進むのだが、アングラ・マネーの謎にしても、政界のフィクサーやIT業界の寵児の造形にしても通りいっぺんで、しばしばページをめくる手が止まる始末。これまでのサスペンスものは海外を舞台にしていたのでボロが出なかったのかなあ。日本が舞台で日本人が登場人物となると、薄っぺらい小説になってしまった。最新作は時代物らしいのだが、ちょっと手が伸びないな。