
大沢在昌「ニッポン泥棒」を読了。ボリュームもあるサスペンスのようなので期待して読んだのだが…。いや確かに、出だしは面白いのだ。主人公は60代の定年退職した元商社マン・尾津。妻からは熟年離婚され、ハローワーク通いの毎日なのだが、ある日突然トラブルに巻き込まれる。ハッカー集団が世界のあらゆるサイトに侵入して作り上げた未来予測ソフト「ヒミコ」は、インターネット上のどこかに隠されている。それを開く鍵に設定されたのは日本人の男女。その一人が「アダム」である尾津。そしてもう一人「イブ」は30代のかおるだった。この男女がどんな鍵になるのか? 元過激派のパスポート偽造屋や公安、ヘッドハンターを装ったCIAなどが絡んできて、すっごく面白くなりそうな展開。なのだが肝心のコンピュータまわりにリアリティがない。大沢本人も「コンピュータが分からない主人公を書けるのも今くらいだと思った」と書いている。それでこの長編を書いちゃいけなかったんじゃないかな。世界のありとあらゆる人物のデータが取り込まれているから未来予測ができるソフト、なんて嘘っぽいでしょ。このあたりが嘘だと、CIAだNSAだ公安だ公安調査庁だとかいう他の設定まで嘘くさくなるのだよねぇ。老年ながら筋の通った生き方をしてきた60男とホステスをしながら法科大学院から司法試験を目指す30女、さらに世界的謀略。って結構食欲をそそる設定だったのに、マンガにも劣る与太話になっちゃった。大沢さん本人も失敗したなあ、って思ってるでしょうね。よっぽど暇がない限りは、止めといた方が無難。「
パンドラアイランド」はよかったのに。