年末にbunkamura で野田秀樹の「走れメルス」を見た。この戯曲は野田が夢の遊眠社のためにおよそ30年前に書いたもの。本人は「若書きである」と言うが、野田の原点ともいえる作品で彼の才能がすべて(といってもいいと思う)ほとばしり出ている。僕は個人的に遊眠社も野田も好きではない。それは、テーマ性よりも言葉遊びをいじくりまわしている脚本家と劇団という感じを持っているからだ。当時、つかこうへい事務所の芝居にのめり込んでいた僕にとって野田は頭のいい(そりゃ東大だもんね)、演劇を玩具にしている学生に見えたのだ。もちろん、その後の野田はさまざまな変容を遂げたことは知っているが、やはり第一印象を拭うことは難しい。で。今回見た「メルス」はどうだったのか。役者については素晴らしいの一言。古田新太は言うに及ばず、河原雅彦、カムカムミニキーナの松村武、サモ・アリナンズの小松和重、浅野和之、櫻井章喜、元惑星ピスタチオの腹筋善之介、ジョビジョバの六角慎司、NYLON100℃の峯村リエ、説明いらない濱田マリ、猫ニャーの池谷のぶえなど、すべてのキャストに名優ぞろい。もちろん、深津絵里、小西真奈美も頑張るし、中村勘太郎もなかなかだった。ひびのこづえの衣装も相変わらずだが、カワイイ。では、本と演出はどうなのか。マツケンサンバなど時事ネタも織り込み、笑いもふんだん。大人の野田秀樹だったなあ。そして、吊り天井を使い、映像を多用する演出も豪華そのもの。さすが、bunkamura を2ヵ月満員にする商業演劇は違いますなあ。という感じ。見て損はないが、たいして得もない、というのが実感。しかし、これだけの役者を間近に見られる幸せというのもまた確かである。誘われなかったら行かなかっただろうが、行ってみて良かったといのも本当。複雑な気分ではある。それと役者としての野田秀樹だが、やっぱ野田って女優だったんだなあ、という感じ。