いかにも地味な出演者に、名前も聞いたことのない監督。タイトルもストレートすぎるし、クラシックものって苦手だよな。てな第一印象の映画、「オーケストラ!」。見てきました。公開から早2ヶ月半経っても客足が遠のいていないのは凄いですね。ほとんど前知識なしでみたんですが、それはそれでよかったかも。いい意味でも悪い意味でも裏切られました。評判では、「泣ける!」ということですが、前半は明らかにコメディのり。いったいどんな映画なの、とちょっと戸惑ってしまいました。主人公は、ブレジネフ時代にパージされて、ボリショイ劇場で清掃員として働く元天才指揮者。劇場に届いたボリショイ交響楽団に対するパリ・シャトレ劇場からの出演依頼ファックスを入手し偽のボリショイ交響楽団を編成してパリで演奏を敢行! ていうのが大筋なんです。ソ連に抑圧されて演奏が出来なくなった昔の仲間を一人一人呼び集め、偽パスポートで出国しパリへ。とまあ、それだけでも荒唐無稽なストーリーなんです。前半部分は、「七人の侍」風だったり「ミッション・インポシブル」風だったりして。しかもコメディタッチなので、笑えないギャグも散りばめられているという。なのにどうして泣ける映画なのかというと…。実は作品の通底に、旧ソ連共産主義による反体制派抑圧とユダヤ人排斥に対する抵抗メッセージが潜んでいるからだったんですね。それもイデオロギー的にではなく、芸術と家族愛という切り口で提示してあるので見やすいのに、とても泣ける、わかりやすい映画に仕上がってるんです。監督は、ルーマニア出身のユダヤ系、ラディ・ミヘイルアニュ。知らないですよね。主演も、ポーランド生まれのロシア俳優、アレクセイ・グシュコブ。こちらも知らないでしょ。ちょっとは知ってる出演者としては、「イングロリアスバスターズ」に出てたメラニー・ロランとかフランス女優のミュウ・ミュウくらいかな。いかにも、な小品な訳です。なのに監督の手腕が素晴らしい。特に、最後の15分間。チャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲」にのせて繰り広げられる大団円の構成・編集は絶品でした。
ネタばれになりますが、最後の15分は圧巻です。リハもしていない団員たちによるボロボロの演奏が、ソリストとのコラボレーションで素晴らしい演奏に化けていく、ヴァイオリン協奏曲。その15分の間に過去の真実や主要人物の心象を乗せ、あまつさえは後日譚までをも1曲の中で処理してしまった監督の手腕は並々ならぬものがあります。最終カットの後、スッパリとエンドロールに行ったのも思いっきりがイイ! そして、この映画のキーともなる女性バイオリニストを演じたメラニー・ロランが素敵でした。日本人好みの可愛い顔なんですが、相当の熱演。ヴァイオリン演奏シーンも代役なかった風なので、やるもんだな、と。「のだめ」と比べると俳優さんが数十倍努力してますね。ホントに不思議な
作品ですが、確実に観後感は確実にいい映画。つい、サントラCDを買っちゃった位です。ぜひ、映画館で見てください。まだまだ、ロングランは続くようですから。