山口組系後藤組元組長の一代記です。聞き書きで、後藤さんの静岡弁が活写されていて、妙にリアル。彼が、いかにしてチンピラになり、ヤクザになり、山口組に入り、経済ヤクザとして東京進出をし、経済人や政治家と渡り合ったかを淡々と語っていて、面白くさらにアッと言う間に読めてしまいました。もちろん、元々ヤクザなのですから、人を傷つけたり、法律に違反することをやったりしている人間の話であり、手放しで褒められるものではありません。しかし、やはり何かの道を極めた(文字どおり極道ってことですけど)人間が晩年に語る言葉にはそれなりの重みがありますね。もちろん、幾分かの自己弁護もあるだろうし、仲間と敵では言葉の切っ先も幅があるのでしょうが。こと、ヤクザとしての親分、兄弟分、子分に対する身内意識やけじめの付け方については凄いものがありますし、彼のいうチンピラ政治家やチンピラ総会屋、チンピラ起業家への見方も一本筋の通ったものがあると思いました。ヤクザとしての成り上がり方を描いた前半部分も興味深いですが、創価学会との闘争部分も相当面白い。さらに朝日新聞社に立てこもって拳銃で自決した野村秋介さんとの交流のくだりも読み応えがあります。また、後年の肝臓を患って渡米して肝移植を受けるくだりや、最後に僧侶をたよって得度する話なども小説のように楽しめる本でした。ちょっとびっくりしたのが、今公開されている「BOX 袴田事件 命とは」という映画のプロデュースをこの後藤さんが手がけていたこと。袴田事件が出身地である静岡で起きたものというのがきっかけらしいのですが、後藤忠政という人物はまさに不思議な存在なのだな、と思った訳です。何を言っても、結局はヤクザの繰り言にすぎないと、後藤さんは自分でも自嘲的に言ってはいますが、後半の森、小泉、福田、安倍、麻生という歴代の自民党の総理大臣や、最近の民主党の鳩山、小沢両氏を論じた部分では、思わず頷いてしまいそうな意見も多かったように思います。ヤクザ、極道、暴力団…、と言われる人種が著したものではありますが、そういう色眼鏡をちょっと置いて読んでみてもいいくらい、実に興味深い一冊です。5月末に出版されて、6月の段階ですでに3刷を数えているのですから、世間でも注目されているのでしょう。