ついこの間まで、NHKでドラマをやってましたね。「君たちに明日はない」。あの原作小説シリーズの最新作。リストラ請負業の日本ヒューマンリアクトに勤める村上真介が主人公の短編連作も3冊目になったのですね。「ビューティフル・ドリーマー」、「やどかりの人生」、「みんなの力」、「張り込み姫」の4作を収録。ホントにあっという間に読めちゃうんですが、それぞれ趣向があって楽しい。とは言え、リストラものも3冊目になると、ネタ切れっぽくもなるようで。これまでの2冊が、いろいろな業界の内幕とリストラをテーマにしていたのに比べると、今回は、垣根さんご本人の人生というか職歴や趣味に大きく偏ってて逆に面白かったなぁ。最初の1篇、舞台は英会話学校。リストラ対象は東女卒でスイスのホテル専門学校卒。なのに、都心の大手ホテルを1年でやめ、大学院を目指すも挫折、今度は英語学校の教師になるという道のり。いつも夢を見ているという女性なのですね。そして、2篇目は、旅行会社。確か、垣根さんはそういう仕事をしてた筈。ネタばれになっちゃいますから書けませんが、どうもご自身をモデルにしてるんではないかという節も…。そして3つ目は、自動車販売会社「首都圏マスダ」のリストラ。これがまた、明らかにマツダをモデルにした短編。絶対意図的なんでしょうね。フィクションなのに登場するクルマはRX-7(FAとかFBね)だったり、ユーノスだったり、ロードスター(FAロードスターとか)だったり、完全にマツダの実在するヤツなんですから。さらに、「カキさん」と呼ばれるユーノス500に乗る作家まで登場するんですよ。自分じゃん! 垣根ファンなら、たまりませんな。そして、表題作の「張り込み姫」。一転して、大手出版社の写真週刊誌の編集者が主人公です。なるほどね。今回の4作は、どれも垣根さんに近しい業界もしくは人間を取り上げてるんですね。その分過去の2作に比べて、業界覗き的な面白みは薄れてるんですが、作者がノッて書いてるんでまた一味ちがった趣きがありますね。というより、真介と陽子の存在感がちょっと希薄になってるかも。でも、垣根さんは2008年7月から「精神的なものも含めた体調不良」で、執筆を休んでたんですよ。その間、ご自分の人生とかいろいろ考えることも多かったようですね。今までにも増して、「じぶん」が反映された小説になったのかもしれません。
ところでどうも垣根さん的には、リストラ3部作ということらしいのですよね。ということは、続編はないかもしれません。それとも、日本の経済状況がガラッと変わった時に長編で復活とかが、あるのかも…。期待しちゃうな。