朝日新聞に連載中から凄いと噂のあった吉田修一の「悪人」。単行本化されて即買ったのですが、ほっぽらかし状態。最近、ようやく読み出したら、これが止りません。一晩で一気読みでした。いや、凄いな、吉田修一。途中何度も、「これは宮部みゆきか」と思うほどの文章と展開で、完全に舌を巻きました。デビュー作の「最後の息子」にしても、芥川賞をとった「パーク・ライフ」にしても、お洒落な都会派の純文学というイメージだったのですが、さにあらず。確かに「パレード」で山本周五郎賞をとっている人ですから、エンターテインメント作家としても十分に実力があったんですね。毎日少量掲載される新聞小説という枠組みを最大限生かして面白く、かつ読者に読み続けてもらうために採用したと思しき手法が完璧に機能しています。複数の登場人物それぞれを断片的に描きながら、ゆるやかに、次第に、段々大きくなっていくうねりを作りだしていく。時に三人称になり、時に一人称風に変化する文体も駆使されて、読者は巧妙な作家の手中に陥ってしまうのですよ。福岡、そして佐賀という舞台の設定も絶妙でした。本当に悪人って誰なんだろうと、考えさせられてしまうタイトルも、じわりじわりと効いてくる感じでよかったです。