という訳で藤原伊織さんの遺作「名残り火-てのひらの闇Ⅱ」を読了。全体のトーンが渋めで、底辺に横たわっているテーマや事件の背景も暗めなのでちょっと重い読後感が残りましたが、傑作です。腰巻には「遺作にして最高傑作!」とあります。「最高」かどうかはともかく、傑作であることに異論はありません。僕には前作以上に、主人公の堀江雅之のキャラクターが立っているように感じられました。前作では堀江じしんの過去(暴力団組長の息子という出自)が大きくフィーチャーされていて、堀江のダークな側面がとてもクローズアップされてたのです。今回は、堀江も会社組織に属さず、行動や言動に自由度が増して生き生きとしているように見えます。冒頭いきなり、堀江の親友(というのかな、会社の同僚で深い信頼で繋がっている友人ですね)の柿島が亡くなります。あたかもオヤジ狩りによる事故死に見えながら、あまりに不審な死に方の謎に立ち向かうのが今回の堀江です。何より、全体を通して読みどころとなるのは、四谷西署のノンキャリ刑事・関根とのやりとりでしょう。本来、二人ペアで行動すべき刑事なのですが、何故か堀江のもとに一人で現われる関根。前作の事件に対する堀江の関わりを薄々感づきながら、捜査情報や柿島の置かれた立場に関して際どいやり取りが交わされるのです。刑事捜査の最前線でしのぎを削ってきたベテラン捜査員とカンがよく頭も切れる堀江の丁々発止の押し引きはまさに見ものです。さらに、本書で初めて登場し、謎解きにも深く関わってくるサンショーフーズの三上社長も魅力的なキャラクターです。一代で上場食品会社を築き上げたやり手ながら、頭はスキンヘッド、歯に衣着せず、自己流を通す男。後半ではなんと目黒のナミちゃんのバーにも入り浸るのですから、面白い。そしてもちろん、堀江の元部下で、今は業界大手の尾島食品で宣伝課長になっている美女・大原真理も健在です。目から鼻に抜ける聡明さで堀江の調査を助けるのです。前作では大原にはフリージャーナリストの夫がいたのですが、今は別居しているらしく、堀江との関係も微妙に揺れ動くのです。あー、この続編、きっと藤原さんの頭の中にはあったんでしょうね。堀江と大原が結婚するってのは考えにくいけど、何らかの形で結ばれるという三部作の完結編が読みたかったなぁ。かなわぬ夢ではありますが。しかし、藤原伊織さん、読み応えのある小説を残していってくれました。ありがとうございます。
ところでまったく個人的にですが、大原真理という女性。僕にはTBSの小島慶子アナの顔がダブって仕方ないのですよ。誰にでも物怖じせず切り込み、頭の回転が速く、まあ美人、というあたりが彼女を彷彿とさせるのかな。まあ、そんなこと、どうでもいいことなんですが…。