これも、公開時に映画館で見られなかった作品。ガーデンシネマとかシネスイッチとか満員だったらしいしね。ウディ・アレンは昔はファンだったけど、このところご無沙汰の監督です。まあ、この作品はアカデミーで脚本賞にノミネートされたし見とくか、と言う感じ。それが、結構な傑作でした。映画館が混むはずだ。ウディのお得意なコメディ・タッチは極力廃されていて、シリアスかつ粛々とした映像で綴られております。監督のインタビューなどを読めば、ネタもとはドストエフスキーの「罪と罰」らしいですけどね。あとは「太陽がいっぱい」とか。貧乏青年の成り上がり物語がモチーフ。舞台はイギリスのお金持ち一家。そこの娘クロエ(エミリー・モーティマー)に気に入られて、成り上がりの道を進むのが元プロ・テニスプレーヤーのクリス(ジョナサン・リス・マイヤーズ)なのです。クロエの兄トム(マシュー・グード)はアメリカ人の女優の卵ノラ(スカーレット・ヨハンセン)と婚約中。クリスノラの官能的な魅力に惹かれてしまいます。ホントにスカーレット・ヨハンセン、エロかったなー。ま、話の筋としては、実業家の女婿となって出世に励む一方でノラとの情事にどう決着を着けるかというのが肝になってるんですが。冒頭、テニス・ボールがネットの上に当たり真上に弾んでコートのどちらに落ちるかというハイスピードカメラによる素晴らしく映画的なシーンがあって。この映像にクリスのモノローグ「人生はすべて運だ」というのが被さるのです。タイトルを表すと同時に、結末への大きな伏線になっている映像で記憶に残ります。
見る者の予測をはぐらかすような結末までの脚本の力は並々ならぬものがありますね。僕にとって一番印象的だったのは、音楽でした。カルーソのオペラが要所要所にかかるというのがウディ・アレンの狙いらしく、アメリカ人の監督がイギリスを舞台に撮った映画にイタリアのオペラのテノールというのが、ミスマッチのようでありながら、逆に絶妙でした。カルーソの悲しげで物憂い歌声が映画全体を支配しているという感じでしょうか。
かといって、この映画、シリアスなだけなのかというとそうではなく。ロンドンへ出てきたばかりのクリスが一人レストランで食事しながら読むのが「罪と罰」と「ドストエフスキー入門」を交互に、だったり、ラルフ・ローレンでセーターを買ってきたクリスがノラに出会い「やっぱりトムはセーターはカシミヤだよね」と尋ねると「ビキューナよ」とにべもない答えが返ってくるとか、シニカルな笑いもあちこちに潜ませてあって、ウディは、やはり手錬れでございますね。