「ハゲタカ」以来、真山仁作品を読破中です。年代順に読んでるんですけど、どんどん上手くなっていくのが分って楽しいなぁ。この作品はテレビ業界が舞台。主人公は一人ではなく、正義感にあふれる報道ディレクター・風見、ミスター視聴率と呼ばれるバラエティ・プロデューサー黒岩、そして総務省に出稿するキャリア女性警察官僚・織田の3人を核とした群像劇として描かれます。今回も、TBSが坂本弁護士の取材VTRをオウム真理教へ見せてしまった事件やイラクでの邦人拉致事件の時の自己責任論争などが下敷きとなって物語は進んでいきます。現実の出来事をベースにしながら、少しずつ虚構の世界へとずらしていくという真山さんお得意のパターンですね。舞台はどの新聞系列にも属さない民放キー局・プライムテレビ放送(PTB)。人気キャスターの福森を筆頭にPTBの報道姿勢は反権力の政府批判が売り。そんなある日、報道ディレクター風見の下に入ったのが中東での日本人拉致という大スクープでした。しかし、放送事業再免許を控えるPTBの幹部たちは、過去のカルト宗教VTR事件という脛の傷に怯え、スクープを見送ってしまうのです。一方、ミスター視聴率と呼ばれながら数字だけを目標とした笑いに疑問を持つ黒岩プロデューサーは毎年恒例の24時間テレビのキャスティングを巡って、局幹部たちの派閥争いに巻き込まれます。一方総務省で再免許を担当する女性キャリアの織田はテレビ局と政治家の間に挟まれます。報道姿勢に好感が持てるテレビ局ながら反政府の報道姿勢を叩きたい与党政治家たちの思惑にも左右される立場。もともと学生時代にカルト宗教による弁護士殺害を身近に体験したことで犯罪被害者を守ろうと警察官僚になった織田ですから、PTB再免許の担当には複雑なものがあったのです。そして次第に顕わになる、PTBの経営危機…。書き始めたのが2004年1月と言いますから、まだライブドアによる放送局の株買占めは起きていない時期。しかし、テレ朝の椿発言事件やNHKに対する自民党のVTR事前検閲、電通による放送業界の支配構造、久米宏や古館伊知郎を彷彿とさせるキャスターなど、さまざまな要素を上手に取り入れながら、テレビと政治と官庁の関係を上手に描ききっています。テレビの現場については相当取材されているようですが、残念ながら「ステブレ」「こじ開け」といった用語の使い方は少し見当違いだったかもしれません。しかし、芝居の世界出身でお笑いを突き詰めようとするプロデューサー黒岩の造型などは、一口で経済小説と括ってしまうには惜しい位のものがありました。「ハゲタカ」の鷲津におけるビル・エヴァンスやジャズといったファクターのように、今回は落語の「子別れ」が使われて、とても効果を上げています。
ところで、フィクションとしての企業名なのですが、プライムテレビ放送とか、ゴールドバーグ・コールズとか、真山さんの作品に登場する企業名が統一されているのはとても面白いですね。PTBも恵比寿ガーデンヒルズの隣に存在するように描かれたり、現実と虚構の擦り合わせ方に真山さんは独特の感性があるような気がします。最近の作品では以前の作品で登場した企業名や登場人物もかぶってきているようですし、現実世界とパラレルに存在する真山仁ワールドがどんどん完成してきているようで、本当に楽しみです。ということで、現在は「マグマ」を読んでおります。