さまざまなシリーズ・キャラクターを持つ東直己さんですが、これは新シリーズ。車椅子の画家でありながら冷徹な殺し屋でもある宮崎一晃が主人公の異色ハードボイルドです。「阻止」、「抹殺」、「別れ話」、「敵討ち」、「氷柱」、「奇跡」、「極刑」、「私怨」の8短編からなっています。役人の汚職だとか、インチキ宗教だとか、ライブドアもどきのITバブル企業とか、政治家と別れた愛人とか、幼児殺しを証拠がないために無罪になった女とか、映像技術を駆使して驚かすイカサマ・イリュージョニストとか、どこかで見たり聞いたりしたような事件がモチーフになってます。そこに絡んでくるのが車椅子の殺し屋・宮崎一晃。彼の患っている病気はシュタイン・ベル症候群という難病。時とともに体が動かなくなっていく病気です。ま、ネットで検索したら、見事にそんな病気はなかったですけど。で、一晃が身の回りの世話を頼んでいる女性が篤子。実は月150万円という破格のギャランティで愛人込みの雇用契約をしている飛び切りの美人なのです。そして、一晃に仕事を仲介するのは障害者施設を併設する寺の僧侶・龍犀。一晃と龍犀のコンビがいい味だしてます。荒唐無稽と言えばそれに尽きるのですが、ちょっと2時間ドラマとかにして(裸が無理ならVシネマとかでもいいな)見てみたい感じでありました。一晃が椎名桔平で、龍犀が中尾彬とかな感じかな。読んでいって思い出したのが、ローレンス・ブロックの殺し屋・ケラーのシリーズです。お、待てよ! ケラーといえば東さんの作品には欠かせないバーの名前だし。ブロック読んで、異色な殺し屋が主人公の短編連作書きたくなったのかしら、と思ってしまいましたよ。ブロックの手法で行くと、一晃の病気の進行具合もあるだろうし、次は長編てことになるのかな。
ちなみに、ケラーのシリーズは「殺し屋」という短編集が書かれた後に、「殺しのリスト」という長編が出ているのです。