佐々木譲さんの北海道警シリーズの発端にもあたる作品が、この短編集の中の「制服捜査」です。2004年3月発売の小説新潮別冊「警察小説大全集」に掲載されてます。この一編だけはリアルタイムで読んでるんですよ。その後、この駐在シリーズが小説新潮に書き続けられる一方で、長編「うたう警官」が書き下ろしとしてこの年の暮れに出版されます。つまり、2002年から2004年にかけて露わになった北海道警の稲葉警部事件や裏金事件を背景に、佐々木さんが道警をテーマにした小説を書き始めたのですね。インタビューなどで佐々木さんが言ってることによると、結構なディープスロートがいてこそ書けたそうですから、道警内部にも情報提供者はいるのでしょう。どの作品にしても、そこまで警察(とその周辺)って狂ってるのか?と思わせられるような犯罪の黙認や警察内部の隠蔽行為(果ては現役警官の射殺命令まで)が出てくるのですが、あながちフィクション上のつくりごとではないのかも、と思わされます。「うたう警官」については別に書きますが、この連作短編集「制服捜査」も非常によく出来た作品集です。不祥事を二度と起こさぬために北海道警は同一部署での長期間の配属を禁止しました。そのあおりをくって、札幌の強行犯係の刑事だった川久保も人口6000の小さな町・志茂別の駐在を命じられます。高校へ通う娘2人を考えての単身赴任です。これまで大した事件もなかったような小さな町。しかし、刑事だった川久保の目には不思議な事柄が次々と見えてくるのです。防犯協会とか警察友の会とかの団体による地元なりの事件へのケリのつけ方。犯罪捜査は本署の刑事に任せなくてはならない駐在警官という身分。そんな中ですが川久保は田舎の町の裏に潜む闇をあぶり出し、過去の未解決事件や事件化されなかった事件を解決していくのです。元郵便局員で定年後は公民館で詰め碁に精を出す町の事情通・片桐ほか脇役のキャラクターも魅力的です。5つの短編が収録されています。小さな町ながら入り組んだ人間関係やさらにそこからはみ出してしまった人たちが凄くよく書けています。「このミス」で2位になったのも完全に納得です。