「ショート・カッツ」や「プレイヤー」など群像劇映画の巨匠ロバート・アルトマンは昨年11月20日に亡くなりました。アカデミー監督賞には結局縁がなかったのですが、その半年前にアカデミーは彼に名誉賞を与えたています。ぎりぎりセーフというところですね。そのプレゼンターがメリル・ストリープとリリー・トムリンでした。「彼の映画だと他の俳優がセリフにかぶってくるのよね」などと言いながらお互いに相手のセリフを食いまくっての受賞者紹介がとても面白かったのが記憶に鮮明に残っています。その後のアルトマンのスピーチも感動的だったんですけども。さて、この2人の女優がプレゼンターだった理由がこの作品。ちょうどアメリカ公開がアカデミー賞授賞式の頃だったからなのですね。結果的にはアルトマンの遺作、ということになってしまったのです。この作品も、お得意の群像劇形式です。舞台はミネソタ州の小さな町の劇場。毎週そこで行なわれているラジオの公開番組収録。カントリーやゴスペル歌手による楽しいショーは地元では人気番組なのだけれど、ラジオ局は大手企業に買収され打ち切りが決まってしまいました。新オーナーは劇場をつぶして駐車場をつくるらしいのです。そんな中、ラジオ・ショー「プレイリー・ホーム・コンパニオン」の最終回収録が始まろうとしています…。ラジオ番組のホスト、カントリー歌手、メイク係、効果音担当、バンドのミュージシャンたち、AD、そして劇場の警備員。さまざまなショーの関係者に交じって、白いトレンチコートを着た謎の女も登場します。さらには首切り男と呼ばれる新オーナー会社の重役もやってきて…。いかにもアルトマンらしい群像劇。なのですが、不思議なのが現実にはありえなそうなプライベートアイ気取りの警備員や幻のように現れたり消えたりする謎の女の存在。どうやらお伽噺的な要素も含まれている映画のようです。1時間45分という手ごろな長さ。アルトマン好きにはたまらない作品でした。まあ、出演者によるカントリーミュージックが結構多いので、カントリー嫌いだとちょっとかもね。メリル・ストリープやリリー・トムリンやリンジー・ローハンが歌うのやちょこっとトミー・リー・ジョーンズが出ているのも楽
しいですよ。映画の中でラジオ・ショーのMCギャリソン・キーラーを演じているのが、まさにギャリソン・キーラーその人なんです。実はこの映画の原作と脚本も彼が担当しているのです。「プレイリー・オーム・コンパニオン」は実際にアメリカ全土で放送されているラジオ番組でキーラーはその脚本・MCを務めています。そのラジオの世界を映画に出来ないかと持ちかけた先がロバート・アルトマンだったという訳なのです。
ラジオ番組を舞台にした小説と言えば、ジョン・ダニングの「深夜特別放送」が思い出されます。こちらは第二次大戦直前のラジオ全盛期を舞台にしているのですが、なんとなく雰囲気が似ていますね。