西原理恵子さんのマンガに出てくる鴨ちゃんこと鴨志田穣さんは、3月20日午前5時に肝臓がんで亡りました。ほとんどの新聞に記事が出ていたのでご存知の方が多いでしょう。この本は、鴨志田さんがアルコール中毒を克服するための闘病に材を取った私小説です。アル中小説と言えば、中島らもさんの「今夜、すべてのバーで」が傑作として名高いのですが、この鴨志田さんの作品もさらり飄々としながらも心にずっしりとくる名作です。鴨志田さんはアル中に加えて肝臓がんに罹って亡くなったのですが、その辺りの顛末とアル中病棟で暮らす不思議な人たちを優しくかつ緻密な目で観察して小説にしています。アル中治療は精神科で行なわれるのですが、その段階も第一期・二週間、第二期・四週間、第三期・六週間というのが最短のプロセスです。第二期になれば外出も出来、自助グループと呼ばれる断酒会に参加することになります。そして退院前には体験発表と言って、自分がいかにしてアルコール中毒になったのかを他の患者や看護の人々の前で発表するのです。この作品の中にも、“鼻血さん”というあだ名の元極道の壮絶な告白がしたためられています。そして締めくくりは、がんとわかった鴨志田さんが家族の元に帰るために行なう体験発表なのですが、これも泣けてしまいます。表紙のイラストは西原理恵子さんですが、装丁はリリー・フランキーさん、素敵な本になっています。本書では、アル中病棟を退院するところまでが書かれていますが、がんとの闘病については、インターネットの
OZmall に鴨志田さんの日記が連載されていました。こちらも一冊にまとまるのが待ち遠しい内容です。
鴨志田さんと西原さんは結婚し一男一女をもうけましたが、アルコール中毒のせいで離婚をしました。しかし、結局最期の半年間鴨志田さんは元妻の西原理恵子さんのと子どもたちのところで過ごしたのです。今週の AERA で西原さんは家族4人の暮らしを「新婚生活のようでもあって、本当にしあわせだった」と語っています。アルコール中毒を克服して、ここまでの小説を書いた鴨志田穣さんは本当に凄い方だと思います。RIP