マーティン・スコセッシが香港ノワールの傑作「インファナル・アフェア」をリメイクした「ディパーテッド」を見ました。最近は「ギャング・オブ・ニューヨーク」にしても「アビエイター」にしても、どうも冴えない感じのスコセッシ。僕の大好きな「IA」をどうしちゃうのか、ちょっと心配でしたが、予想を上回る傑作でした。もともとの「IA」は3部作という大作です。もちろん、後日譚や過去のエピソードも含まれてはいますが、それを1本にまとめるのには無理があるかな、と思っていました。しかし、さすがスコセッシ。ちゃんと着地させていました。関心したのが、ドラマのストーリー展開をほとんどいじることなく(ま、結末はちょっと変えてありますが)、舞台をアメリカとアイリッシュ移民に置き換えることで、まったく別な作品に仕上げているところですね。ボストン南部の貧しいアイリッシュ移民の住む地区が舞台。アンダーカバーとしてアイリッシュ・マフィアに潜入する刑事ビリーにレオナルド・ディカプリオ。マフィアのボス・コステロにジャック・ニコルソン。コステロにかわいがられて育ち、内通者となるために警察官となったコリンにマット・デイモン。という、きらびやかなキャスティング。入れ違いにスパイとなった二人が若いので、オリジナルのアンディ・ラウとトニー・レオンほどの深みが出なかった嫌いはあるけれど、心配していたレオ様の演技も問題なしでした。音楽に印象的にロックを使い、抑えた色調と巧みなカットバックで2時間半に納めたスコセッシも凄いですが、特筆すべきはやはり脚色でしょう。脚色家はボストン出身でアイルランド系のウィリアム・モナハンで、地の利を完全に生かしたというところでしょうか。コステロが引用するジェイムズ・ジョイスやジョン・レノンもアイルランド系で、こうした民族的背景を踏まえたストーリー・テリングが効いてます。オリジナルと変わってるのが、潜入捜査を命じる上司が二人になっているところ(「インファナル…」ではアンソニー・ウォン演じるウォン警視でしたね)。マーティン・シーンとマーク・ウォルバーグが演じてるんですが、
この設定が結末に微妙に影響してます。唯一といってもいい女性が、主演の二人と関係するハーバード出の精神分析医マデリン(ヴェラ・ファーミガ)。全然美人じゃないところがまた、印象に残りました。今週末に発表されるオスカーですが、作品賞、監督賞、脚色賞のうち2つはイケるんじゃないでしょうか。
ところで、確かに素晴らしい映画だったんですけどね。ジャック・ニコルソンが「IRISH」と書かれたTシャツを着ていたり、女医さんもハーバードのTシャツ着てたり、分かりやすすぎる表現が気になったんですよ。特に最後のシーン。組織に潜りこんだネズミを描いた映画だけど、最後にズバリを出すなんてね。ちょっと興ざめですよ、スコセッシ監督。