演劇ユニット・トラッシュマスターズの劇団公演を見るのもこれで3度目ですね。今までの新宿タイニィアリスを出て、下北・駅前劇場に進出。そんな気合いがしっかり感じ取れる芝居でした。前作の「トラッシュマスタリズム」も、その前の「トラッシュタンダード」も、脚本・演出の中津留章仁の方向性って、社会批判と人間の残酷さみたいなもんがテーマなんだと思います。前作は、ちょっと社会評論的なメッセージが際立ちすぎて、僕には重すぎたんですけど…。今回も休憩なしで3時間ということで、さらにヘヴィーになってるのかと疑いましたが、それほどでもありませんでした。舞台は近未来の日本。東京の東北部が極端な下流社会となり、ホームレスと在日中国人が流入するスラムと化しています。そこに在日韓国人もからんで暴動が発生した結果、日中韓の国際問題にまで発展してしまう。それが1幕目。2幕ではさらに数年経っていて、今度は日本人が復興に成功し、在日中国人ホームレスが問題化してしまいます。3幕ではさらに時代が進み、日韓戦争が起きそうなところまで来ているという具合。そんな、未来予想図の中、青年ホームレスのリーダー的存在のトキオとそのグループの若者たちの物語が進行する訳です。殺人あり、犯罪あり、不倫あり、裏切りあり、のダークなトーンですが、書きこみすぎともいうほどの脚本を役者たちがスムーズに実体化してくれてました。3時間飽きさせないというのは、たいしたもんです。
驚いたのは舞台美術です。幕間は場内暗転し、ステージに引かれたビ白幕にビデオ画面が映写され次の時代までの世界の変化をナレーションで説明するという演出です。それが5分位あって長いのですが、その間に幕の裏では大掛かりなセットチェンジが行なわれているのです。駅前劇場という超狭い箱でこの舞台転換は凄かった! メッセージ性や不必要ともいえる長さには首を傾げてしまう部分もあるのですが、
演劇というものが観客を驚かせながら舞台に注目させるエンターテインメントとするならば、その1点だけでもこの芝居は成功と言えるのではないかな。個人的には、政治・マスコミ・宗教といった社会制度に向けてのメッセージを抑えて、もっと人間を描くことに焦点を当てたトラッシュマスターズの芝居を本多劇場とかで見てみたいですね(できれば2時間くらいで)。次はぜひ、もっと大きなハコでね! キャストは、カゴシマジロー・ひわだこういち・吹上タツヒロ・龍坐/ハカセ・清水伸・山田(同居人)・吉田羊(東京スウィカ)・川崎初夏・山崎えり/長田奈麻(ナイロン100℃)。ユニークな髪型を鬘で隠しトキオを演じた龍坐と川崎初夏が好演。ナイロンの長田さんも存在感ありました。