新宿鮫シリーズも、はや9作目ですか。最初がごく普通の刑事ものだったことを思うと、ずいぶん遠いところまで来た気がしますね。個人的には、最初の映画化作品の真田広之が妙に印象に残ってますね(決して映画の出来がよかった訳ではないんですが)。晶役は田中美奈子でした、確か。逆に、NHKのドラマの舘ひろしは、全然イメージじゃなかったな。大体全然キャリアっぽくないし。で。第1作が連続警官殺し。第2作「毒猿」は台湾人の殺し屋が敵役。3作目は「屍蘭」で殺人看護婦。しゃぶの売人を扱った「無間人形」あたりから少しずつ変質したのかな。5作目の「炎蛹」はちょいとテロ・パニック風味まで加味されてました。次の「氷舞」では、鮫島を巡る晶以外の女性も登場させるなど苦労も見られます。7作目の「灰夜」は、ついに新宿以外の土地での展開で、いよいよ不思議な方向に。それを修正すべくか8作目の「風化水脈」では新宿という土地の持つ宿命をテーマにして。さあて、では最新作は? と読ませていただいたところ…。新宿を舞台にした多国籍犯罪の盗品マーケット・ルートが題材で。外国人犯罪から東京をいかに守るかで警察庁キャリアと対立する鮫島。「氷舞」以来の敵役・仙田も登場して、ひさびさに盛り上がるかな、と思ったら。なんだか、犯罪捜査理論小説みたいでね。入庁同期の宿命のライバル・香田との対決も理屈を捏ね回した「外国人犯罪をいかに抑止するか理論」の戦いになっちゃってて、楽しめなかったんですよ。今週もベストセラーリストのトップに名を連ねてる本書なんですが、買ってる読者さんたちは、こんなエンターテインメントにも新書みたいな、現実性や社会性とか細密分析を求めるんですかね。もっと単純な警察小説とか事件小説を読みたいと思うのは僕だけなんでしょうか。鮫島にしても、晶にしても、桃井にしても、薮にしても、香田にしても、仙田にしても、役者は揃っているのだから、純粋なエンターテインメントにして欲しかったですね、大沢センセ。
でもまあ、香田が退職し、仙田が死んで、明らかに、鮫島をとりまく環境は大きく変化した訳です。次回作が書かれて単行本化されるのには、たぶんまた5年はかかるでしょうが、その時、鮫島は50を越えていて。もしかすると、桃井は退官していて。晶のフーズハニイも解散しているかもしれず。10作目はシリーズに決着をつけるべき作品になるのかもしれませんね。その時取り上げられるテーマは、あの自殺した同期キャリア・宮本の残した遺書の謎を解き明かすこと以外にはないはずです。シリーズ最終巻ともなろう「新宿鮫Ⅹ」には大きな期待が募ります。ぜひとも15年以上に渡るシリーズに堂々たる結末を用意していただきたいものだと、願って止みません。