上下巻で原稿用紙2500枚ともいう超大作。ようやく読み終えました。通勤電車で読もうにも、一冊が厚くて重くてなかなか進まないという始末で。結局一月半かかってしまいました。だが、面白いです。「亡国のイージス」を読んだとき、これだけのものを書けるなら、外国を舞台にすればすぐに国際的ベストセラー作家だな、と思いましたが、ご本人はやはり日本が好きなのか、また舞台は日本です。しかも、「イージス」に出てきた自衛隊の秘密部隊・ダイスとかもそのまま登場するし。映画「戦国自衛隊」の脚本とかも担当していましたし、きっと自衛隊&軍隊フェチなんでしょうかね。ストーリーですが、出版社の宣伝文句によれば「2006年秋、“ネット財閥”アクトグループの役員を狙った連続テロが起こる。実行犯は入江一功をリーダーとする「ローズダスト」を名乗る五人グループ。警視庁の並河警部補は防衛庁情報本部の丹原朋希と捜査にあたるうちに、朋希と一功の間の深い因縁を知る。かつて二人は防衛庁の非公開組織「ダイス」に所属し、従事していた対北朝鮮工作が失敗、二人が思いを寄せていた少女が死んだのだった…。」ということになります。防衛庁、警察庁を中心にしつつ、日本の防衛に関する水面下の動きと日米関係のあり方・北朝鮮との向きあいなどをテーマにした超力作です。壮大なスケールで描くサスペンス・アクションと紹介されていますが、そこここに挟まれる国際政治的な意見なども現実的で論理的で読み応えのあるポリティカル・フィクションにもなってます(まあ、政治家はあまり出てきませんけどね)。非常に客観的な描写は(ある意味ハードボイルドです)登場人物すべてにリアリティを与えています。爆発物やウィルスソフト・武器、工場や配管システムなどについては、そこまでやらなくても、というほどの精密さで語られて、時折飛ばしたくなる程です。しかし、何といっても「イージス」などでもそうだったように、
中年のおじさんと純粋な青年のコンビが繰り広げる浪花節的なぶつかり合いを経ての相互理解というところが、全体を大きく貫く読みどころでしょう。しかし福井さんの凄いところは、こうした本筋とも言えるメインの登場人物の行動言動だけがよく出来ているだけではないところ。いつもテレビの討論番組に登場する軍事評論家や政治評論家とか、課長クラスの警察官僚とか、並河警部補の妻や娘とか脇役たちの造形にも、長い小説の中で論理的な整合性を持たせているところです。相当緻密な設計図の元に書き始められた作品ということができるでしょうね。端緒の裏日本のローズダストと結末のお台場のローズダストという部分はちょっと出来すぎとの批判もあるようですが、これだけの登場人物と事件を(あちこちに張り巡らされた様々な伏線も含めて)限られた時間・空間の中で破綻なくまとめ上げる手腕は、尋常ではありません。拍手するしかない傑作です。
ところで、個人的には…。
ビルや車両がいくつも連なっていることの描写をするのに福井さんは「放列」という単語を使うのが好きなようで、僕が見つけただけでも、5回以上出てくるのですが、これがちょっと不自然だったかな。
ま、大したことじゃないんですけどね。。。
それと、「状況を始める」というのは、カッコよかったですね。