先週の日曜にテレビ東京で放送されたメディア・リテラシー番組という触れ込みの「森達也のドキュメンタリーは嘘をつく」が面白かった。メディア・リテラシーって言うのは、メディアが放送したりするものについてちゃんと読み解くための力をつける、みたいなこと。これについてはテレビ各局がさまざまな番組をつくっているけど、今までのは青少年向けで、教育テレビ風なのが多かった。小中学生に身の回りのことについて番組を作らせて見たり、テレビ制作者と若者をシンポジウム風に喋らせてみたり、そんなのばかりだったのだ。ところが、この番組はひと味違う。メディア・リテラシー番組と銘打っているが、メディア・リテラシーについて触れることはなく、プロデューサーと森達也がドキュメンタリーとは何か?をテーマに番組は展開する。まずは藤原ヒロシや原一男、佐藤真といった人たちへのインタビューで進んでいくのだが、ディレクターである森達也は、若手のディレクターの村上賢司に番組のメイキングを撮ることを依頼する。とまあここらあたりから仕掛けがうっすら透けてくるのだが、番組としては見事にメディア・リテラシーに関する作品に仕上がっている。これを小中学生が見てそのメッセージ性を読み解けるかどうかは微妙で、ちょっと矛盾をはらんだ番組でもあるのだけれど…。まあ、高校生や大学生にとっては(もしかしたら大人にも)、メディアとはどういうものなのかを考えさせる格好の材料と言えるかもしれない。
以下はネタばれですが。
さて、メイキング・ディレクターの次に森はドキュメンタリーにあまり詳しくない映像志望の女の子をインタビュアーとして採用する。日本映画学校に行ってると紹介される吉田恵子という子はけっこうカワイイ。なのだが、インタビュー対象者の原一男の名前を間違えたりもするのだ。少しずつ番組に違和感がただよい始める。そして、番組半ば、自らを取材対象とする映像ディレクターでソノ国際映画祭受賞監督という松山が登場する。10年前に失踪した父親探しをドキュメンタリーのテーマにしているという松山。その父親とようやく会えるという瞬間に森達也のカメラが密着することになる。この辺から違和感は相当大きくなる。出会って殴り合いになる松山父子。さらに番組の2ショットインタビューを受けている間に都合よく邪魔するようにかかってくる携帯電話。
中断されるインタビュー。さらに、森達也が番組を降りるという展開にまで発展する。おいおい。ちょっとやりすぎでしょ。そうなんです。実はこの番組自体がドキュメンタリーを装ったフィクションだった、という訳。いわゆるフェイクという奴ですね。森達也の著作である「ドキュメンタリーは嘘をつく」というタイトルをそのまま具現化るするという試みだった訳です。素人にしちゃキレイすぎの吉田嬢は、それもそのはず、オーディションを受けた役者さんだし。松山親子も赤の他人。しまいには、番組冒頭のメイキング依頼を一番最後に撮影するというオチまでつけて。エンディングのロールはしょっぱな「キャスト」という表示から始まるし。「ディレクター森役=森達也(本人)」とか「メイキングディレクター村上賢司役=村上賢司(本人)」とか、ね。なるほどやるねえ、森達也。久々に面白いテレビ番組を見せてもらいました。左の写真は森達也著の
書籍版。