ふとしたことで国立劇場で歌舞伎を。今月の出し物は市川猿之助が演って好評だった「當世流小栗判官」を猿之助門下の若手が演じるもの。小栗判官のお話は、浄瑠璃や歌舞伎ではお馴染みのもの。その面白いところを集めて、さらに宙乗りや早変りもふんだんに配した猿之助十八番の一つです。今公演では昼の部を第1部として、序幕と二幕目を上演し、夜の部が第2部ということで三幕目から大詰をやるという趣向。演出は猿之助ご本人。初演で猿之助は小栗判官と漁師浪七をやり、さらにお駒まで演じ分け、小栗とお駒の同席するシーンでは早変りもやったらしいが、今回は若手がそれぞれを演じる。僕が見に行ったのは夜の部。小栗判官には市川右近、照手姫は市川笑也、お駒が市川春猿だった。第1部を見ていない人のために本編の前に口上がつくのだが、これにもきちんとキャストが登場してくれる。1部の見せ場である荒馬の碁盤上での曲乗りも写真パネルで見せる親切さ。で本編。猿之助演出ならではの分かりやすい演出で見やすいことは、この上なし。早変りも見せてくれて楽しいし、圧巻は天馬の宙乗りです。首や脚がリアルに動くつくりものに小栗判官と照手姫が乗って花道の上を優雅に飛んでいきます。しかも三方からスポットライトが当たりタンデム姿が壁面に映し出されてビューティフォー! 「ET」でエリオット少年とETが乗った自転車が空を飛ぶシーンを想起させます。ただし、個人的には右近の無理矢理な感じの台詞回しにどうしても馴染めなかったですね。猿之助丈のが、見てみたいですね。という訳で、歌舞伎公演としては70点くらいだったのですが、たまたま席が2階だったと幕間が長かったので凄いものを発見しました(って国立によく行く方には当たり前なのでしょうが…)。2階ロビーの回廊に展示されている絵画が素晴らしいのですよ。東山魁夷やら、杉山寧、伊東深水、上村松篁、小倉遊亀なんて巨匠の絵画が所狭しと展示されてるのです。うひゃー、て感じ。絵の前にはソファもあってくつろいで鑑賞できるのですよ。ま、絵には関心も持たずにお弁当のお寿司なんかをパクついているお客さんが多いのですけどね。うーん、国立劇場、恐るべし。今度行くときは、隅々まで探検してみましょう。