「ブロークバック・マウンテン」をしりぞけてアカデミー作品賞を受賞した映画が「クラッシュ」。プレゼンターのジャック・ニコルソンも驚いてたし、それ以上にもらったキャスト・スタッフたちも大仰天の風情だった。まあ、カウボーイたちのホモ・セクシュアルという題材に投票を躊躇したアカデミー会員が選ぶにはLAの群像劇が最適ということだったのかもしれない。そんな前評判もあって、たいして期待しなかったのだが、これが面白いのである。群像劇といえばロバート・アルトマンの得意技だ(「ザ・プレイヤー」や「ショートカッツ」は最高です!)。もともとハリウッドにはこんなタイプの映画がたくさんあって、「マグノリア」(ポール・トーマス・アンダーソン監督)や「2 DAYS」(ジョン・ハーツフェルド監督)、「トラフィック」(スティーブン・ソダーバーグ監督)など傑作ぞろいなのである。もし、アカデミー賞を取らなくても(ノミネートされなくても)、「クラッシュ」は僕の大好きな映画であります。オスカーでは作品賞の他に、脚本賞と編集賞を貰ったのだが、それも道理。監督で脚本も手がけているポール・ハギスは昨年作品賞をとった「ミリオン・ダラー・ベイビー」の脚本家でもある人。細部に張り巡らされた伏線や布石、思わぬ人間関係が見事なまでに収束していく感じは、非常に良く出来た舞台劇を見ている風でもある。「ホテル・ルワンダ」に出ていたドン・チードルが出てたのも好印象。今回の受賞に繋がった「クラッシュ」の独自性(というものがあるとすれば)、ただの群像劇ではなく、全編を通して人種・民族と差別というテーマを織り込んだことだろう。実際、やりきれないエピソードも数々あるのだが、見終えたときに残る印象は決して悪いものではない。惜しむらくは、濃密なストーリーを狙ったが為に、現実的にはありえない偶然が重なってしまっているのが残念かなあ。映画の「嘘」で許される範囲を超えているように、僕には思えたのです。しかし、面白い。透明なマントというくだりは素晴らしいアイデアです。おすすめです。