ナイロン100℃のケラリーノ・サンドロヴィッチ書き下ろしの「労働者M」。遅ればせながら見てきました。小泉今日子に堤真一という有名キャストも手伝って、チケットは早々にソールドアウト。ネット上では、不評も含めて賛否両論さまざまな評判が立っているとは聞いてましたが、あえて白紙の状態で、見てまいりました。出演は、堤真一、小泉今日子、松尾スズキ、秋山菜津子、犬山イヌコ、田中哲司、明星真由美、貫地谷しほり、池田鉄洋、今奈良孝行、篠塚祥司、山崎一と超豪華。開演前のステージには工場かなにかを思わせる鉄骨作りのセット。最前部には半透明のスクリーンが覆っています。ベルとともに開演、かと思ったら、まずは小泉今日子に堤真一の安っぽいお面をつけた男女による前説でスタートです。内容の簡単な解説を交えつつ笑わせてくれます。2人の台詞がスクリーンになめだしで出てくるあたり、凝った演出です。そして客席側から出演者たちが音楽(KERAと大槻ケンヂらによるユニット・空手バカボンの「労働者M」)にのって登場です。
ちょっとネタばれではありますが、公演も終了したことだし、内容に触れますね。まず、上演時間が長いです。これはいつものケラ作品に共通してます。第1部2時間、休憩15分、第2部1時間15分。2つの世界が交錯する設定になっていて、それも上演時間を長くする理由のひとつでしょう。ひとつは、土星人によって侵略されて荒廃している近未来の世界。もうひとつは、現代で、自殺願望者たちのための救済テレフォンサービスを隠れ蓑にして高価なお守りを売っているネズミ講会社。ストーリーも、あるような、ないような。どちらの世界でも指導者にあたる幹部や室長が不在であり、そのもとで右往左往するひとびとが描かれています。とは言っても、指導性の欠如と集団のなんとか、なんていうテーマ性があるとも思えません。重要な意味を持つのは台詞であり、場面転換であり、2つの世界の交錯する瞬間であるのです。まさにケラ・ワールド。パンフレットのインタビューでケラさんは「重要な出来事と何も起こらない瞬間を同列に描きたかった」と言ってますが、まさにそんな感じ。演劇的なドラマツルギーを追求する手法として、ひとつのストーリーを時系列で微分していくのではなく、さまざまな場面を積分していく手を使った、という感じです。だから、ストーリーに意味はないが、場面場面に意味がある。僕はそう感じました。印象に残ったのは、犬山イヌコ出演シーンで「二度見」がネタになっていたところ。二度見、とは「何かに驚いたときに一度見て、視線を戻してから吃驚してもう一度見る」というコメディでのお決まりの動きのこと。それから、舞台転換が非常にお洒落だったな。
回転舞台を使いながらもう一つの世界に転換すると、時間が何十分か戻っているとか。舞台全体に投射される映像が少しずつ黒く塗りつぶされていって暗転するとか。照明が薄暗くなったと思うと舞台上の人間が投射される映像にすりかわっていてレコードの針が飛んだように同じ動きが繰り返されたりとか。考え抜かれて、洗練された手法が満載でした。それともう一つ。堤真一が時々観客に向けて狂言まわし的に喋りだすのです(その時他の出演者はフリーズしている)。そこに犬山さんが突っ込みを入れたりするとか。かと思うと、いっこうに帰ろうとしない犬山さんに堤さんが「そしてサキという女は出て行った!」と無理やりト書きを言って、帰らせてしまうとか。まったくメタ芝居が入り組んでて、面白いったらありゃしません。とは言うものの、最後は超あっさり。ドラマティックなエンディングや芝居全体にオチをつける終わり方を期待してた観客には、まさに肩透かし的な感じでした。一部の方は戸惑っていたようにも見えました。観客を選ぶ舞台だけど、僕は大好き。