キネマ旬報ベストテンの1位に続き、日刊スポーツ映画大賞にも輝いた映画「パッチギ!」。面白いという噂は聞いてましたが、遅まきながらDVDにて拝見。うん、素晴らしいです。無冠の帝王・井筒和幸監督の受賞も頷けます。監督のテクニックもさることながら、脚本と音楽、さらに出演している若い俳優たちが素晴らしいんですね。もともとの原作は、松山猛の「少年Mのイムジン河」。松山猛は60年代に京都でフォーク・クルセイダースに詩を提供していた人。「帰ってきたヨッパライ」もそうなのだが、その中に「イムジン河」があった。中学時代に親交のあった朝鮮の友人から聞いて印象に残っていたので、フォークルに歌ってもらおうと思ったのだ。しかし、それはさまざまな政治的圧力によって発売中止になる。そんな事実を背景にしつつ、その時代の高校生たちのストーリー(フィクション)に落とし込んだことが大成功しているのだと思う。加藤和彦が担当した音楽もせつなく美しい。塩谷瞬が歌う「イムジン河」(キョンジャのフルートと演奏するデュエットのがサイコー!)も、オダギリジョーが唄う「悲しくてやりきれない」も、見るものの胸にジーンと沁みてくる。そんなすべてのコンディションが整えられた舞台で暴れ回る朝鮮高校生も、それと敵対する日本人高校生も、チマチョゴリの制服を着た朝鮮女子高生も、単なるノンポリの高校生も、まるで命が吹き込まれたみたいに、リアルだ。高岡蒼佑も、沢尻エリカも、真木よう子も、波岡一喜も、ケンドー・コバヤシも、60年代を活写しているのだ。
「ALWAYS-3丁目の夕日」はCGで昭和30年代を再現した訳だが、「パッチギ!」は出演者の熱気と音楽の力で昭和40年代を再現したということもできるだろう。大傑作ですね。ところでタイトルの「パッチギ!」は朝鮮語で「頭突き」のことだというのだが、僕の少年時代、東京の学生は頭突きを「チョーパン」と呼んでいた。まあ「チョーセン・パンチ」の略だったと思うんだけど…。