31歳のY県エリート職員の野村聡は、県初の民間人事交流研修者6名の一人に選ばれた。一年間の研修を無事にこなし県庁に戻れば、念願の係長へ昇格できる。と勢い込んで乗り込んだ先は田舎町のスーパーマーケット。しかも、研修先の指導員はただのパートのオバちゃん・二宮泰子だった。官と民の意識格差をベースにしたエンターテインメント小説。発売とほぼ同時に織田裕二主演での映画化も発表された。舞台がスーパーというだけで、伊丹十三の映画「スーパーの女」を思い出してしまう上に映画化、となると、どうしても伊丹作品を頭に描いてしまう。映画はまだ撮影中らしいので、小説としての感想を。作者の桂望実はフリーライターを経て「死日記」で「作家への道!」優秀賞を受賞しデビューした人。ストーリーの盛り上げ方は下手ではないんだけど、文章の一人称が野村になったり、泰子になったり、ブレているのがまず不満。「スーパーの女」という前例があることを考えると、もっとドラスティックなどんでん返しが欲しかったかも。好感はもてるのに、細かい瑕疵が目立つのは、やはり舞台設定のせいかなあ。ちょっと似た設定の小説に萩原浩の「メリーゴーランド」があって、こちらも落ちぶれた遊園地を立て直すために公務員が出向する話なんだけど、あっちのほうがよく出来てるよなあ。