「三丁目の夕日」はビッグコミックオリジナルに連載されている西岸良平のマンガである。昭和30年代を舞台にしたほのぼの家族もので、連載開始は1974年と35年前である! 単行本は50冊を越え、偉大なるマンネリ作品と言えるだろう。その映画化が「ALWAYS 三丁目の夕日」。あの独特の世界観を映像化するのは不可能ではないか、と思ったのだが、意に反しての素晴らしい出来。舞台は昭和33年、東京タワー建設中の東京である。山崎貴監督は、これまで「ジュブナイル」「リターナー」などCGを使ったSFを撮ってきた人。超高度なVFXで昭和33年の東京を再現するとは想像つきませんでした。東京タワーが見えるということで、港区のどこかを描いているんですが、ディテールも凝りまくりな上に、超大掛かりなVFXにはまさに脱帽です。都電と共にオート三輪や観音開きのクラウンが走る道路。鉄橋を爆走する蒸気機関車。ビルの屋上から浮かぶアドバルーン。その向こうにはまだ展望台も出来ていない東京タワー。という風景をよどみない動きの中で見せてくれるんですから、感動もんです。商店街の風景もリアル(やたら看板が多すぎるのは凝りすぎたせいでしょうが…)。ナショナル坊やの人形や様々な琺瑯看板。町内の道端には木で出来た収集用のゴミ箱がある。まさに当時にタイムスリップした感覚です。で、ストーリーはどうかというと。鈴木オートの六さんが女の子になっている以外は原作に忠実で、集団就職で青森から六さんが上京とか、売れない小説家の茶川先生とかマンガの基本ストーリーを上手く2時間半にまとめている。部分部分、超マンガ的なシークエンスもあるんだけど、それが映画半ばを過ぎると完全に人情ものになる。故郷の両親との確執とか、貧乏ながらの恋とか、別れた母親を訪ねていくとか。ある意味、ベタなお涙物語なんだけど。舞台としてこれだけ
緻密に30年代の世界を用意されると、それがとても素直に受け入れられるんですね。まるで、O・ヘンリーの短編集を読んでいるように、清々しさがストレートにこちらの中に入ってくるんですよ。ホントに最後の30分くらいはジーンとしちゃいましたよ。思いのほかの傑作です。一平くんと淳之介くんを演じる子役2人が素晴らしかったです。おすすめ!