「踊る大捜査線」のスピンオフ・ムービー第2弾。スピンオフとはつまり、織田裕二が出なくてつくる「踊る」ということですね。第1作の「
交渉人真下正義」は結末にちょっと不満が残ったのだが、アクション・ムービーとしてはまあ及第点。この「容疑者」は「交渉人」のエンディングからの続きとなっている。室井(柳葉敏郎)が記者会見の席から携帯電話で呼び出されて今回の事件に繋がる訳だ。舞台は新宿北署。雨の夜、新宿3丁目のスナック入り口で男が背後から刺し殺された。現場で目撃されたのは現役の制服警察官。北署員は彼を確保し交番で事情聴取を行なうが、ふとしたコトで逃げられてしまう。捜査員全員で追うのだが、クルマに引かれ被疑者は死亡。とまあここまでは普通に犯罪ものなのだが、この先が急展開なのだ。
警察庁と警視庁の権力争いに巻き込まれる形で室井が本部長である捜査本部の捜査は暗礁に乗り上げる。さらに死亡した警察官の母親が訴訟マニアと呼ばれる敏腕弁護士・灰島(八嶋智人)にそそのかされて、室井を刑事告訴してしまう。この告訴を受けて地検は室井を逮捕。罪名は特別公務員暴行陵虐罪の共謀共同正犯。警察キャリアの逮捕、ということでマスコミも大騒ぎ。キャリアの権力闘争の狭間でもてあそばれる室井。という構図なのだ。このあたりから映画は一変、リーガル・サスペンス風になる。「踊る」シリーズの全作品の脚本を担当していた君塚良一はこれが映画2作目。君塚演出は、異常なまでに暗めの映像を多用。舞台や登場人物の設定は超ベタである。新宿北署はスラムのようで捜査員たちも肉体労働者風ばかり。弁護士灰島の事務所は超近代的で所属弁護士もキモいお宅風ばかり。田中麗奈扮する小原弁護士の事務所は場末のボロボロ。テレビ的というのか、リアリティに欠ける設定でリーガル・サスペンスとしては少々興ざめだった。ただし総合的に言えば、僕は楽しめた。「男の生き様(笑)」みたいなもんを描こうとした監督の気持ちは伝わってくるし、数億かかったという新宿アルタ前を再現したオープンセットも壮観だった。筧利夫、真矢みき、スリーアミーゴスといったレギュラーに、哀川翔、吹越満、佐野史郎、柄本明が加わりキャスティングもまあ満足。警察ファンタジーとしての「踊る」を好きなマニアたちには、全編を支配する重苦しさがちょっと厳しいだろうから、「容疑者」ほどはヒットしないのかもしれないが…。しかし、子供騙しというには良く出来た映画でしたよ。