山口瞳と言っても知らない人の方が多いのかもしれないが、直木賞作家で、映画「居酒屋兆次」の原作者と言えば、少しは分かるだろうか。週刊新潮の「男性自身」という長期連載コラムも有名である。もともとサントリーの宣伝部で「トリスを飲んでHAWAII に行こう!」などヒット広告をつくっていたのが山口瞳さんだった。その彼に、小説を書いてみないかと持ちかけたのが、当時の「婦人画報」編集長だったのである。そして婦人向けグラビア雑誌に連載されたのが、「江分利満氏の優雅な生活」であった。東西電気の宣伝部員で、妻夏子と一人息子庄助とともに社宅に住んでいる江分利の日々の生活を魅力的な文章で綴る短編連作である。その素晴らしさは文庫で読んでもらうとして。処女作で直木賞をとってしまうような山口さんの才能を見抜いた編集者が矢口純さんという方だった。後に矢口さんも山口さんと同じサントリーの宣伝会社に移って、あの有名なPR雑誌「洋酒天国」の編集に関わることとなる。その一方でエッセイストとしても、数々の名エッセイをものした。その矢口純さんが亡くなられたそうです。享年84歳。合掌。