すべての新聞において、書評は載らないだろう内容。ある意味、暴露小説なのですが、元新聞記者である筆者の手によって、面白く、読みごたえのあるエンターテインメントに昇華されています。
まあ、ある程度の週刊誌読者ならば、新聞の販売店に対する押し紙は知っているはず。新聞の発行部数が水増しされて発表されており、配達されず、読まれもせず、梱包すら解かれない新聞が存在するのですね。そんなもの読者には関係ないし、わざわざ自社のお金を使って印刷して発送してるんだから、ご勝手に。と言う話なのですが。その部数を根拠に広告を取ったり、チラシを折り込んだりしてるのですから、ある意味広告主にとっては裏切り行為ということになるのですね。
物語は、編集局長に睨まれた記者・神田が全く畑違いの販売局に異動させられた後から始まります。ここ数年の新聞離れから来る購読者減、すなわち部数減、そして販売店の苦境に対して、新聞販売を担当する販売局にも、対策はこれと言ってありません。
担当員と呼ばれる、地域の販売店担当者は購読者開拓の手助けをするのが本来の仕事ですが、最近の状況では現状維持を図るのが精いっぱい。販売店から毎月本社へ売上げを入金させるために店の尻をひっぱたくのが仕事。あまつさえ、入金がままならない店に対しては自分の貯金から肩代わりをするというのですから呆れます。
「販売店では押し紙が3割以上」とか、「新聞は折込チラシの包み紙」とか、なかなかのフレーズが続出し興味をひきます。
後半、主人公が対立する編集局長と販売局長のスキャンダルを掴んで、やっつけるくだりは、新聞社版半沢直樹という感もあり、なかなかのカタルシスも味わえます。とは言え、読後に残るのは新聞業界の薄暗い裏側への嫌―な感じなのです。昔から、インテリがつくってヤクザが売る、と言われた新聞業界が、まさにその通りだということになります。
筆者の幸田泉さんは自分が体験した記者から販売局への異動に基づいて書いていると思うのですが、記者時代のさまざまな取材経験から、まったく別なジャンルの小説も書ける人だと思います。
販売局ものでない、新聞社小説をかいてもらいたいですね。