逢坂剛の最新作「墓石の伝説」を読了した。というより、ようやく読み終えた。逢坂作品の中で、岡坂神策シリーズに属するもので、御茶ノ水界隈で現代調査研究所という何でも屋を開業している岡坂がトラブルに巻き込まれる、というものだ。初出は、短編で、何作か書かれている(「ハポン追跡」とか「カプグラの悪夢」など)。その一方で、長編にもなり「十字路に立つ女」、「あでやかな落日」、「牙をむく都会」と作を重ねている。独身中年男である岡坂神策の造形と毎回登場する美女や脇役、お茶のみ周辺のレストラン、バーなどのディテールが楽しいエンターテインメント小説である。「十字路」では生体腎移植、「あでやか」では女性ギタリストと企業キャラクター、「牙をむく」ではハリウッド・クラシック映画祭とスペイン内戦シンポジウムがテーマ。全体に逢坂のスペイン好きが反映した作風だったのだが、前作でハリウッド映画を扱った勢いか今回は、西部劇映画が取り上げられている。元来、ウェスタン・ファンらしい作者の趣味が全編ふんだんにふりまかれて、マニアックな怪作といっていいだろう。ことにOK牧場の決闘という史実に対する薀蓄と新解釈が中盤から後半にかけて繰り広げられるあたりは、小説の域を超えているかも…。正直、僕も途中飛ばし読んだところが多かったし。とは言え、駿河台のバー「ヘンデル」のマスター萱野や浮世絵コレクターの桂本弁護士など脇キャラも健在で、楽しめる部分も多々あるのだ。 70代の老監督がウェスタン映画を撮ろうとする話なのだが、アメリカへのロケハンから帰ったところでエンドという変てこな終わり方は、やはり新聞連載小説だったからだろうか。岡坂神策の好きな僕としては、次回作はマニアックでなくあって欲しいのだが。