この映画を見ることになったきっかけは、もう、ホントに、ひょんなことなのだった。このブログにコメントをいただいた方のサイトを訪問。さらにコメントを辿っていった方のブログで、映画のチケットを差し上げますというのを見たんですね。高橋伴明監督が田中裕子さんでこの「火火」を撮っていて、すでに公開中なんて、全然知らなかったので、ちょっと焦って、衝動的に「ください」なんてメールしてしまったら、すんなり譲っていただけて。
misatomintさんありがとうございます。で、早速行ってまいりました。これが、大傑作。高橋監督の抑えた演出も素晴らしいですが、田中裕子さんの表面的には水のように静かなのに内側に常に燃えさかる炎を封じ込めたような演技は、壮絶のひとこと。彼女の最高傑作になるのではないか。窪塚俊介もよかった。兄を超えるかもしれないな。さて、ストーリーだが、驚くべきことに実話が元になっているのだ。主人公・神山清子は実在の人物。信楽自然釉を成功させた実力派の陶芸家である。その生き方は破天荒で、二人の子供がいながら離婚し、赤貧の中で陶芸一筋を貫いている。そんなある日、息子の賢一が白血病を発病。骨髄移植のための運動を始め、それは骨髄バンクの誕生へとつながっていく。しかし、賢一の骨髄移植はうまく行かず…。という話。こうして文字にしてしまうと安直な、お涙頂戴の闘病映画にも見えるだろうが、さにあらず。ポスターなどに骨髄移植推進財団の後援が謳ってあり骨髄バンク運動のプロパガンダ映画にすぎないのか、との懸念もあったのだけど、さすが高橋伴明。真摯に生きた人々の人間ドラマとして完全に成立させている。同じ病気をあつかったあの「セカチュー」は、白血病を物語の一要素として使った訳だが、こちらは、一味も二味も違う。無菌室での移植後の闘病シーンなど鬼気迫る迫力なのだ。岸部一徳、石田えり、池脇千鶴、遠山景織子といった共演陣もナイス。特に窯に弟子入りした女性を演じた黒沢あすかは不思議な雰囲気を醸しだしていた。彼女は、あるシーンで焼きあがった天目茶碗を不注意で割ってしまい意味不明な
言葉を発し、庭に走り出し泣き崩れるのだが、それが超リアル。実際、僕も天目が割れた瞬間に映画館の暗闇で「アッ」と声を出してしまった程である。さて、神山清子さんは実在するだけでなく、本編に登場する陶器のすべてを実際に焼いたという。さらに本編の撮影場所もすべてが彼女の仕事場「寸越窯」と自宅で行われた。映像の裏から滲み出してくるリアリティには、圧倒されざるを得ない。くわしくは書けないがラストシーンは圧巻。それにしても、凄い映画がさりげなく公開されていたのだな、と知らなかった自分を反省。
ネタばれでよろしければ、ラストシーンです。
賢一の棺を家に迎えるにあたって清子(田中裕子)は信楽のしきたりである白装束で臨む。その時彼女は、煙突がくすぶっているのに気付き突如窯に薪をくべ出すのだ。純白の着物の裾も気にせず一心に薪を投げ込み続ける姿は美しいの一言。しかも、その時窯で焼いていた二つの陶器はたぶん骨壷であった訳だし…。