漫画家のきうちかずひろさん。小説を書く時は、木内一裕さんになります。1~2年に一冊、書下ろしで小説を上梓してます。内容はハードボイルドというかアクション&サスペンスって感じですが、これが並の小説家より上手い! 文章のテンポや会話のリアルさや構成の緻密さ思いもよらないストーリー展開。もしかすると現代日本のエンターテインメント小説としては、トップクラスと言えるかも。で、木内さんの最新作が「キッド」。「水の中の犬」、「藁の楯」、「アウト・アンド・アウト」に続く第4作。今回も面白さ爆発です。入手して読み始めたら、止まりません。用事があって仕方なく中断しましたが、正味3時間くらいで読みきっちゃったんじゃないかな。木内さんの小説のいいところは、いかにも実生活にありそうなリアリティ。日常と生活に根ざしたリアル。主人公は麒一という名前なんですが、ひとに名前の漢字を伝える時に「麒麟麦酒の麒に一番搾りの一」と表現するあたりや、登場する女の子・圭子がその字からドド子と呼ばれたりするとこ。腹ごしらえに買ってくるのが、「ドトールのミラノサンドA」ってのもいかにもありそう。それでいて、銃器や手錠などの描写も詳細で手抜きがありません。この「キッド」は主人公の20歳の勉強のできない高校中退のアンちゃん・石川麒一(親から譲り受けた高円寺のビリヤード場を経営!)が、ふとしたことから死体を始末しなくてはならなくなり、さらにはヤクザから追われる羽目になるという設定。そこを、根っからの調子の良さと頭の回転の速さで切り抜けていくっつー寸法。また、高校中退男子っぽく、ガンマニアで、メカ好きのホームセンターマニアって設定が様々なシチュエーションで生かされるんですね。ごく普通の20歳にしちゃあ、格闘系が強すぎって嫌いはあるけど、チャラいのにしぶといって奴、いそうな気もする。すっとぼけたセリフでヤクザと対等に渡り合うあたりは、スカッとしますよ。後半、ヤクザとの真剣な切った張ったになると、ちょっとばかし辻褄が怪しげな部分もありますが、その辺は目をつぶって。とにかく痛快極まりないんだなぁ。いまサイコーのジェットコースター・ノベルと言ってもいいんじゃないでしょうか。個人的にいまんとこ今年のベスト。そして僕の中では「キッド」は木内さんのベストに決定!
ついでに。去年「アウト・アンド・アウト」を読んだ時に、書いたんだけど、アップしなかった感想を載せときます。
木内一裕「アウト&アウト」。
木内一裕は、きうちかずひろ。あの「ビーバップハイスクール」の漫画家・きうちかずひろが小説を書く時は、木内一裕になるのですね。で、この「アウト&アウト」が「藁の楯」、「水の中の犬」に続く3作目。確実に上手くなってるし、油も乗ってきたんじゃないかな。小説に比べると、漫画ってレベルの低い表現みたいに思ってる大人も多いみたいだけど。漫画って物語を絵で表現してるだけじゃなくて、エンターテインメントとしてのストーリーの構築力や作家のイマジネーションや発想力も含めて、実はいま日本で一番の芸術表現、とも言えるわけで。映画やドラマに比べても想像を喚起する部分が残されてる分、強いんじゃないかと。それに比べて、これまでの小説って、純文学にしても、エンターテインメントにしても、文章表現の上手さとか、風景や心象をどう書くか、ってことにばかり腐心しすぎてた感があるでしょ。この木内作品を読むと、プロットそのものや登場人物たちの会話の躍動感とかに、もっともっと重きが置かれてもいいという気がしてくるんです。それにしても、木内さんは映画やVシネマの監督もやってる訳で。漫画、小説、映画の3ジャンルで才能を発揮してるって他に例を見ない存在ですな。