マイ・フェイバリット・オーサーである東直己さんの最新作。東さんにはおおまか二つのシリーズ系(名無しの探偵と便利屋・畝原)とそれ以外の作品という系統があるんですが、これはシリーズ便利屋・畝原もの。北海道日報の記者でありながら、罠にかかり職と名誉を失った畝原は調査業=便利屋として糊口をしのぐ中年男。もうシリーズ8作にもなる中で、その人生もいくつかの事件を経ています。男やもめの娘持ちから、バツイチ同士での結婚で二人の娘を持つこととなり、ある事件で発見された身元もわからず成長も遅れた幼女を養女にし、現在の畝原に至るという感じ。こうして、シリーズ作が出版され時が流れるとともに物語の登場人物たちも成長していくタイプのシリーズ小説って、ファンにとっては何とも言えないものなのですよ。なので、純粋に小説としての面白さやミステリのトリック・謎解きについての評価が甘くなってしまうのは仕方ないのかもなぁ(だって、ファンなんだもん)。とは言え、シリーズの刊行が続いているということはキチンと読者が付いているからで。すでに完成されているキャラクターたちと新たに登場してきたキャラクターたちの交錯する創作空間がどれだけ魅力的でいられるかが、こうしたシリーズものの存在意義なのかもしれません。本作では、カニ族を安く泊めながら働かせることで安価に運営されている自然パークのオーナー(尋常小学校卒の70代)やその近くでゴミ屋敷(というよりはゴミ・エリア)を築き上げている老人、そしてある日突然サラ金から高額の借金をして失踪してしまった高校教師
らを巡る事件が展開されていきます。いつも通り、札幌周辺を舞台に繰り広げられるストーリーは平坦でありながら山あり谷あり(矛盾してますが)。少しずつ調査が進められていく合間に家族や友人とのありふれた日常も描かれ、東直己的札幌における東直己的畝原ワールドが揺るぎなく構築されていることが実感できます。貧困ビジネスと難病、ゴミ屋敷の主といった、ありきたりな素材も、こうしたリアリティを付与された創作世界で扱われると生きてくるのだなあというのが素直な感想です。今回は、畝原家に関してはあまり動きなし。今後について言うと現在畝原の妻である姉川明美の連れ子でネットに詳しすぎる娘・真由(北大生)がどうなっていくのかに、非常に興味があるところです。