ようやく出ました、垣根さんの新作。まあ、一時期筆を取らなかった時期があるから仕方ないですけどね。「ボーダー」は、「ヒートアイランド」シリーズの4作目。というか3作目というか…。「ヒートアイランド」は渋谷の若いストリートギャングたちと闇金強奪を専門にするプロたちの物語。そして2作目「ギャング・スター・レッスン」は、チームを解散した後のアキがプロたちの仲間になっていく話。3作目は姉妹作とでもいえるのか、2作目のサブ登場人物をフィーチャーした南米系クライムアクション。で、この「ボーダー」に至る訳です。もちろん、今までのシリーズを読んできた人間には待望の新作。なにしろ、アキにカオルが絡む物語なのですから。しかも、垣根さんはもう一つのサプライズをプレゼントしてくれてます。そもそも垣根さんがデビューしたのは、サントリーミステリー大賞の大賞と読者賞をダブル受賞したのがきっかけ。その後、渋谷のストリートギャング系を取り上げたこのシリーズや、南米の移民やマフィアを取り上げた「サウダージ」や「ゆりかごで眠れ」、最近では早期退職の奨励が仕事の人事コンサルタントが主人公の「君たちに明日はない」など、多岐に渡るジャンルで執筆されてます。その原点はなんといっても処女作の「午前三時のルースター」にあるんですよ。たぶん、ご本人も愛着のある作品なんでしょう。この「ボーダー」では、巧妙かつ精緻な計算の元に、「ルースター」と「ヒートアイランド」の見事なコラボレーションが行われてるんですね。もちろん、デビュー時にそんなことを意図したはずはありませんから、時間が経つにつれて少しずつ醸成されてきたものが、偶然にもカクテルされて完成された小説ということができるんじゃあないでしょうか。驚くべきことに、カオルは東大生になってます。アキは相変わらず元気。その仲間の二人も、柿沢は完璧に冷徹だし、桃井はユーモラスに桃井のままです。きっかけは、渋谷で今も行われていたファイトパーティ。雅は解散されたはずなのに、何故…? 真相を探るカオルがアキに連絡を入れるのです。うーん、あっという間に読んじゃいましたよ。こういう読書、久しぶり。スターシステムのよーく知ってる登場人物たちが活躍するシリーズものの楽しさが目いっぱい詰まってます。ファンには素晴らしい贈り物です。今後このシリーズがどうなっていくのかは作者次第でしょうが、垣根さんの作品群が大きく広がっていくための懐の深さが増したのではないかと、僕は感じてます。将来的には、真介とカオルがコラボする経済小説なんてのも読めるかもしれませんよ。とりあえず現時点では、「午前三時のルースター」を読み直してみようかな。