復讐3部作「復讐者に憐れみを」、「オールド・ボーイ」で知られる韓国映画界の鬼才・パク・チャヌク監督の最新作。予告編を見た方にはわかる通り、吸血鬼がモチーフの作品です。それにしても、「オールド・ボーイ」は衝撃的でしたよね。日本のマンガ原作をこうまでもすばらしく韓国映画にしちゃうとは…。以後、僕は、パク・チャヌク監督のファンになりました。主演は、ポン・ジュノ監督の「殺人の追憶」や「グムエル」のソン・ガンホ。相手役の美女はキム・オクビン。不可思議な雰囲気ではありますが、いかにもパク・チャヌク作品という匂いのする映画。孤児出身の神父・サンヒョンが病院での祈祷に疲れ、半ば自暴自棄にアフリカの研究所で奇病の血液を輸血されバンパイアになるまでが物語の前半。人間の生き血を吸わないと、その奇病で死んでしまう体になったのと引き換えに、彼が得たのは強靭な体力と空をも飛ぶ力。後半物語はサンヒョンと美女の恋愛譚に展開します。サンヒョンの幼なじみガンウの妻・テジュは孤児だったところをガンウの家で拾われ、飼い犬のように虐げられて育った娘。無理やりの結婚とぼろ布のように働かされるテジュは、サンヒョンに助けを求めるのです。二人はすぐ恋に落ちるのですが、サンヒョンがバンパイアであることはすぐに露呈して…。という展開。前半と後半がブツ切れという評を見かけますが、前半はあくまでも後半を語るための前振りにすぎないと僕は思いました。何より圧巻なのは、テジュを演じるキム・オクビンの得も言われぬ色気でしょう。悲劇的でありながら喜劇的でもあるバンパイアの愛。その象徴は、バンパイアが初めて、愛した人間の女性から血を吸うシーンに尽きます。致命傷を負ったテジュの血を吸いながら自らの血をテジュの唇に注ぎこむサンヒョン。蛇が自分の尻尾を飲み込もうとするかのごとく、二人の血が無限連鎖する瞬間。しかし、この不思議な血の循環はこの時だけ一瞬のもの。といのも、一旦血を吸われたテジュはバンパイアになってしまうのですから。エロティックで、ホラーで、コメディで、ニヒリスティックで、ちょっとヒューマンな怪作。やっぱ、いいなあ、パク・チャヌク。