いやそれにしても、クリント・イーストウッドは凄いなあ。もうすぐ80歳になろうってのに、現役俳優で、現役映画監督なんだから。しかも、撮る作品撮る作品、アカデミー賞クラスですもんね。もちろん、俳優としては十二分の実績も残してる訳だし。この10年に撮った作品(11本)も主要なところで、「スペース・カウボーイ」、「ミスティック・リバー」、「ミリオンダラー・ベイビー」、「父親たちの星条旗」、「硫黄島からの手紙」、「チェンジリング」、「グラン・トリノ」、「インビクタス/負けざる者たち」と綺羅星ぞろい。どれだけ、オスカーにノミネートされたんだろ。で。「インビクタス」、見てきたんですがね。これが、シブい。本当にシブい映画です。と言って、「グラン・トリノ」のように、いかにもイーストウッド的なシブさじゃないところが、逆にシブいんです。ま、実話を根底に置いているという点があるんでしょうが、監督としてのイーストウッドの姿勢がシブい。歴史上の事実や登場人物(現存してる訳です)とフィクションである映画の中の筋立てや登場人物(の行動やセリフの演出)との間の距離のとり方が絶妙なんですね。この映画の主人公は、ある意味、ネルソン・マンデラかもしれないし、フランソワ・ピナール(南アラグビーチームの主将)かもしれない。んだけど、本当の主人公は、タイトルになっている「インビクタス」という言葉なんだ、という姿勢。事実を基にしながらフィクションを構築していく上で、作品に一本の筋を通していて素晴らしい仕上がりだと思います。確かに、ラグビー・シーンはスピード感がなくてかったるいし、何故そう強くもない南アのチームがW杯で優勝できたかの理論的な説明もありません。マンデラ氏の家族の状況についても説明がないし、いま現在の南アの状態についても触れていません。しかし、この作品はフィクションなのだと。南アフリカ共和国という国で、ある数年間に起きた事実をベースに作り上げた映画作品なのだ、と。その割り切りによって、映画を見終わった時に確かに残る、ひとつのメッセージを彫り上げていく手腕は、本当にプロの映画監督なのだな、と感じました。なんのケレンも、CGも、スペクタクルもありませんし、映像が美しい訳でもない。しかし、観るものに確実に語りかけてくる映画だと思いました。映画化権を獲得して、それをイーストウッドに監督させたモーガン・フリーマンも素晴らしいですね。
エンド・ロールには、すべて実際の映像が使われていますが、それを見ていると、さらにジワーッと感動が湧いてくるですね。ただし、ひとつだけ文句があります。この邦題、どうでしょう。「インビクタス/負けざる者たち」。今の若者には読みにくくなるのかもしれませんが、やはりここは、「インビクタス/敗れざる者たち」で行って欲しかったですね。沢木耕太郎を読んできた世代としては、ちょっぴり残念ですな。