2008年のフランス映画って言うから、一昨年の作品なんですね。ずいぶんといろんな映画賞を受けたりノミネートされたりしてます。セザール賞とか英国アカデミー賞とか、ヨーロッパのが多いみたいだけど。全然知りませんでした。朝日新聞に沢木耕太郎さんの映画評が出てたんで、つい見に行っちゃったんです。といっても、細かく批評は読まないようにして、予備知識ほとんどなしで臨んだんですがね。主演は、「イングリッシュ・ペイシェント」のクリスティン・スコット・トーマス。ポスターも彼女の顔正面のアップだけですから、どんなジャンルの映画かも分からずにみた訳です。タイトルの感じからすると、過去の事件とかと絡めたサスペンスかなとも思ったんですが、さにあらず。一般的に言えば、ヒューマン・ドラマってことになるんでしょう。主人公はジュリエット(クリスティン・スコット・トーマス)。彼女が空港のレストランと思しきところで人待ち顔にタバコをすっているシーンがオープニング。そして、クルマから急ぎ足で空港に向かうもう一人の女性・レア(エルザ・ジルベルスタイン)。二人は抱擁を交わして再会を喜ぶのですが、どうも雰囲気がぎこちありません。二人は姉妹なのですが、何らかの理由でジュリエットは妹のレアと別れて暮らしていたようなのです。姉を迎え入れるレアの家には学者の夫とその父、ベトナム系で明らかに養女と分かる幼い二人の娘がいます。とまあ、こんな具合だと、ミステリーでもサスペンスでも、ことによったらホラーにでもなりそうな展開なのですが、そうではなくて。映画は緩やかに進んでいくのです。月に1回は警察によらなければいけないということで、ジュリエットが刑務所に居たのだろうことが示されます。半分くらい映画が進んだところで、ジュリエットが15年前に6歳の息子を殺して刑に服していたと明かされるのです。謎解きではないので、この15年のブランクがどう埋まるのか、罪を償った人間と社会の折り合い、といったところがテーマになります。監督のフィリップ・クローデルはフランスの作家だそうで、これが監督第1作。ジュリエットに興味を持つベトナム系の養女、言葉を失ったものの読書に楽しみを見出しているレアの義父、ジュリエットを担当するヤモメの警官、レアの同僚でジュリエットに好感を持つ大学教授、などなど。ジュリエットをめぐる様々な人々の心の機微を描く脚本は、なかなかうまく出来ています。なのに、最後の30分。広げすぎたお話を纏め切れずに、少しとっ散らかった感じでエンディングを迎えてしまったのが残念でしたね。ほぼ2時間の映画だったんですが、90分から100分に刈り込んで、ジュリエットが息子を殺めた理由は、そんなに克明に説明しなくてもよかったような気がします。しかしまあ、佳作。ロードショーでなくても、名画座やDVDで見たい映画。そして、何より、主役のクリスティン・スコット・トーマスの演技が素晴らしいですね。