「空気人形」よりも、ずいぶん後に見ることになっちゃいました。是枝裕和監督の「歩いても歩いても」。是枝さんの最高傑作という人もいるみたいです。で。確かに、大傑作。脚本がいい。キャスティングがいい。役者がいい。そして、何よりも舞台となる横須賀の町医者の家のあちらこちらを切り取る映像が素晴らしいです。夏の日に、元開業医である父親と母親が暮らす実家に里帰りする、長女と次男。これがYOUと阿部寛なんだけど、似ても似つかないのに、姉弟感があるんですよね。そして原田芳雄と樹木希林の老夫婦もナイス・キャスティング。阿部ちゃんの奥さんは夏川結衣なんだけど、子連れでの再婚てことで、両親とはぎくしゃくしてるし。子役のこまっしゃくれた感じも、ありだと思いました。ごくごく普通の映像と芝居の中で、この家族に起こってきたさまざまな事件を、少しずつあぶり出していく手法が、マジックと呼んでいいほど上手ですね。枝豆と茗荷のまぜごはんとか、トウモロコシの天ぷらとか、小道具としての料理のチョイスも絶妙です。中盤から、実は長男がある事故で亡くなっていたことが明かされて、よりドラマチックな展開になるんですけど。全体のトーンは、あくまで静かで、言うならば平成の小津安二郎みたいな感覚かなー。もちろんテイストは違うんだけどね。ちょっとしたエピソード(夏川結衣の連れ子の学校でウサギが死んだ話とか太った若者が似ている相撲取りの名前が思い出せないとか)もそれぞれ秀逸でした。見て絶対に損しない映画ですね。また、少したったら見直してみよう! なんでもっと早く見なかったのかな…。
それにしても、樹木希林の母親の無邪気そうに見えて邪悪な感じが、凄かったですね。原田芳雄の入浴してるシーンとか、阿部ちゃんとの会話とかね。「東京タワー」より、数段良かったですよ。それと、→このシーン。父親である原田芳雄が初めてみんなに顔を見せるところの全員の配置。パーフェクトですね。ちゃんと樹木希林はそっぽ向いてるしね。