原寮というフリージャズミュージシャンによるハードボイルド「そして夜は甦る」が出たショックは今でも忘れられない。早川書房のポケットミステリが好きだという筆者がポケミスと同じ文字組みでワープロ印刷した作品を早川に持ち込み、その装丁ではできないがとハードカバーで出版された小説の完成度の高さには目を瞠るものがあった。作中出てくる新聞はそれまでのフィクションでありがちだった「毎朝新聞」ではなく「朝日新聞」。警察の名称も「七曲署」ではなく「新宿署」。あくまでもリアリティを尊重しつつ、フィクションを形成していく、その姿勢が新鮮だった。それが1988年のこと。原はその翌年発表した「私が殺した少女」で直木賞を受賞。続く第3作はぐっと遅れて95年に発表された「さらば長き眠り」である。この間に書き溜めた短編は、「天使たちの探偵」という名で一冊にまとめられている。長編としては今回9年ぶりの新作ということになる。相変わらず主人公は私立探偵の沢崎。事務所の名は渡辺探偵事務所。前の事務所の主だった渡辺は死んで数年経っているが、元警察官である渡辺の存在はいまだに沢崎の仕事に影響を与え続けている。という設定だ。今回は、横浜の神奈川銀行・蓬莱支店での暴力団組長発砲事件と老人の誘拐事件に端を発したストーリーだが、読ませる。あとがきに曰く、「新シリーズを書くにあたって、前3作品より優れて面白い作品を、前3作品より短時間で書くための執筆方法と執筆能力の獲得に苦心を重ねておりました」ということなので、大期待。来年に2作目、遅くとも再来年には3作目を、待っておりますぞ。