東直己の最新作は文庫書き下ろし。光文社からの「古傷」は私立探偵・法間謙一が主人公の中篇。法間はもちろん(のりま)と読むのだけれど(ほうかん)と呼ばれることの方が多い。というのもまさに幇間並みの「よいしょ名人」だからである。出会う人間のありとあらゆる部分を褒めまくり、相手をいい気分にさせて、仕事を進めていくのである。もう一つ、法間の得意芸がブランドに詳しいことで、特に相手が女性だと、この特殊能力が威力を発揮するのである。ねえ。「グロッセ」に「アッチェント」、「ラ・スクワドラ」に「デッチマ」、挙句の果てが「ウルスラ・コンツェン」なんざ、分かりますか? どうやらすべて女性向けのファッション・ブランドらしいんだけど、相対する女性の服装やアクセサリーを一目で見切って、即座に褒めまくる、というのが法間の手なんですね。いや、ホントに。全部知りませんでしたよ、ワタシは。ようやく、「エトロ」あたりで知っていた程度。東さんもキチンと取材なさってますなあ。素晴らしい。非才な当方には眩しくっていけませんや。って、口調が移っちまったよ。軽ぁるく、2時間で読みきれる分量ですが、これで500円(税込み)なんだから、お買い得じゃあないでしょうか。